2018年01月17日

「消された女」彼女はなぜ監禁され、精神異常者にされたのか 鋭く饒舌な社会派サスペンス

1.jpg

 大都会の真昼間、通りを一人歩いていたカン・スア(カン・イェウォン)は、突然誘拐され、精神病院に監禁された。待っていたのは強制的な薬物投与、無慈悲な暴力、非現実の世界だった。狂気の中、スアは病棟での出来事を手帳に記録し始める──。

 韓国で実際に起きた拉致監禁事件がモチーフの「消された女」。主演はカン・イェウォンとイ・サンユン。監督は「愛なんていらない」(06)、「廃家」(10)のイ・チョルハ。

2.jpg

 韓国には保護者2人、精神科医1人の同意があれば、本人の同意なしで強制的に「保護入院」させられる法律があるという。スアはこの法律を根拠に精神病院に監禁された。一方、干されかけのテレビプロデューサー、 ナ・ナムス(イ・サンユン)に1冊の手帳が届く。手帳の内容に驚き、送り主のスアに会いに行くナムス。スアが巻き込まれた事件の背景にある衝撃の事実、渦巻く闇を暴くために動き始める。

 再起をかけたテレビプロデューサーが、精神異常者にされた女性の記録・証言をもとに、法律の矛盾に真正面から切り込む。シャープで饒舌な社会派サスペンスだ。スアの手帳をきっかけに、ナムスのジャーナリスト魂が目覚め、事件を暴く原動力になる。

 分かりやすい設定、テレビの制作現場の裏側を軽妙に描いた導入部。観客の心をつかんだうえで、事件の真相に切り込んでいく。知的好奇心をくすぐる構成がうまい。並行して描かれる精神病院の悪行は、嫌悪感を誘う醜悪さ。暴力描写も徹底的で、法の矛盾と社会の闇を暴き出す。

3.jpg

 韓国映画でよく見られる実際の事件を下敷きにした作品。「殺人の追憶」(03)、「殺人の告白」(12)、「トガニ 幼き瞳の告白」(11)など秀作が多く作られてきた。コンパクトな91分の上映時間に、あっと驚くラストのどんでん返し。一気に見せる手腕が光る。

(文・藤枝正稔)

「消された女」(2017年、韓国)

監督:イ・チョルハ
出演:カン・イェウォン、イ・サンユン、チェ・ジノ

2018年1月20日(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.insane-movie.com/

作品写真:(C)2016 OAL, ALL RIGHTS RESERVED

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 21:24 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月14日

「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」視力を失っても 夢をあきらめなかった青年の実話

1.jpg

 ドイツ人の母、スリランカ人の父の間に生まれたサリア・カハヴァッテ、“通称サリー”(コスティア・ウルマン)。両親と姉の4人家族、夢は立派なホテルマンになること。しかし、先天性の病気で網膜剥離になり、手術後に残ったのは5パーセントの視力だった。父は「障害者の学校へ転入しろ」と言うが、夢をあきらめたくないサリーが取った行動は──。

 実話を基にしたドイツ映画で、監督は「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最後の日々」(05)のマルク・ローテムント。主人公のサリアは15歳で視力の95パーセントを失い、高校卒業後はホテルで見習いとして働き、接客業などのキャリアを積み、15年間も目が見えないことを隠していたという。

2.jpg

 学生時代はまだ目が見えていたサリー。レストランで見習いをしながら、家族に料理をふるまうなど明るい未来が開けていた。しかし、突然の病で一度は絶望的な状態に。それでも夢をあきらめない。驚異的な記憶力、わずかに残った視力、聴力を駆使し、猛勉強して学校を卒業する。目のことを隠し、母と姉の助けを借りながら、憧れの一流ホテルの面接を受けて合格する。

 実話ものの映画だが、最初の設定の難易度が高く、映画として興味深い展開になる。主人公が絶望をはねのけ、ポジティブに希望へ向かう姿は、サクセス・ストーリーに近い感触だ。ホテルでの接客の仕事は、人への対応から建物内の移動、食べ物や飲み物、食器の扱いまで、さまざまな作業を覚えなければならない。

3.jpg

 いくたの困難に立ち向かうサリーを、同期見習いのマックス(ヤコブ・マッチェンツ)が助ける。いち早く視力が弱いことを見抜き、サリーにとって心強い相棒になる。出入り配送業者の女性クララ(アンナ・マリア・ミューエ)との淡い恋、指導教官クラインシュミット(ヨハン・フォン・ビューロー)の厳しい監視もアクセントに。さらに、アフガニスタン移民で外科医のハミデ(キダ・コドル・ラマダン)が、キャリアを生かせず皿洗いとして働いている点に、ドイツの現状に対する風刺をしのばせている。

 幸運と不運がともに訪れるサリーの人生。実話がもとであることで真実味が増した。サリーを演じたウルマンは好演で、ローテムント監督の演出は絶妙。誰もが共感できる軽快な作りで、心地よく感動できる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生」(2017年、ドイツ)

監督:マルク・ローテムント
主演:コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ、ヨハン・フォン・ビューロー、アレクサンダー・ヘルト

2018年1月13日(土)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://5p-kiseki.com/

作品写真:(c)ZIEGLER FILM GMBH & CO. KG, SEVENPICTURES FILM GMBH, STUDIOCANAL FILM GMBH

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 11:13 | Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする