2017年12月20日

「52Hzのラヴソング」台湾・ウェイ・ダーション監督に聞く 初のミュージカル「人が大きな幸せを求めない時代。夢を追ってほしかった」

gitokusei.jpg

 台湾のウェイ・ダーション(魏徳聖)監督6年ぶりの最新作「52Hzのラヴソング」が公開中だ。「海角七号 君想う、国境の南」(08)、「セデック・バレ」(11)2部作などをヒットさせた監督が、初めてミュージカルに挑戦した。監督は「人が夢を失い、大きな幸せを求める気持ちが消えている。だからこういう映画を撮った。夢を追ってほしかった」と語った。

 バレンタインデーに起きる出来事を描いた群像劇。パン職人のシャオヤン(リン・ジョンユー)と花屋のシャオシン(ジョン・ジェンイン)。シャオヤンが思いを寄せるレイレイ(チェン・ミッフィー)と、その恋人のダーハー(スミン)の4人を中心に、恋愛模様がポップに描かれる。

 人気バンド「宇宙人(Cosmos People)」ボーカルのリン・ジョンユーら4人はいずれもプロのミュージシャン。さらに「セデック・バレ」で原住民族のリーダーを演じたリン・チンタイ、「海角七号 君想う、国境の南」主演の田中千絵とファン・イーチェンら、監督ゆかりの俳優たち、台北市長の柯文哲(か・ぶんてつ)氏も出演し、作品に花を添えている。

小さくても楽しい映画を撮りたくなった

 一問一答は次の通り。

 ──製作を担当した「KANO」(14)公開時、次の作品では台湾史を壮大に描くと話していましたが、ミュージカルになった経緯を教えて下さい。

 次の歴史作品は時間をかけて準備している最中だ。「セデック・バレ」、「KANO」と規模が大きく、心身ともにくたくたになった。次はさらに大きくなるが、ちょうど合い間に時間があり、小さくても楽しく、(スタッフ)全員が休めるような映画を撮った方がいいのでは、と思った。

1.jpg

 ──最初のアイデアはどうひらめきましたか。
 
 映画界に入ったばかりの二十数年前は、歴史ドラマよりラブストーリーを書きたかった。書きたい種はあったが、なかなか芽が出ない。「KANO」の撮影を終え、宣伝で海外を回っていた時、ふと軽やかな映画を楽しくやりたくなり、すぐに脚本を書いた。とはいえ、小さい作品でも簡単ではなく、かかる時間も大作と同じだった。

 ストーリーはシンプルで、バレンタインの一日を描く。ラブストーリーとして作ると表面的になってしまう。音楽、踊りを加えて、恋愛に対する期待、想像、気持ちを力強く表現した。

ミュージシャンも舞台の上では役者。演出に苦労はなかった

 ──中心となる4人の俳優たち、劇中に使われた曲はどう決めましたか。

 脚本が先にあって、キャラクターに合う俳優を決めた。映画に登場するパフォーマンスには、普段の彼らがそのまま表れている。オフの時もあんな雰囲気で、楽しくて面白い人たち。主演の2人(シャオヤンとシャオシンは)、30センチの身長の差も味になり、調和がよかった。

2.jpg

 ──ほぼ演技経験のない人たちです。演出は苦労しましたか。

 彼らも(音楽を演奏する)舞台の上では役者。演じることに対して前向きで、好きな気持ちがある。あとは映画と舞台のスイッチの切り替えれば大丈夫。演技、ダンス指導の先生についてもらい、理解すればすぐ動けたので、それほど苦労はなかった。

 ──製作を通じてどこに時間がかかりましたか。

 一般的に映画はリサーチやセット作りなど、準備に時間を費やす。しかし今回は、オリジナルの歌詞、曲作りに時間がかかった。音楽はコミュニケーションがとても大事で、完成までの過程も長い。すべてオリジナル曲のうえ、創作性の高いものは完成まで予測がつかず、時間がかかった。

 ──俳優たちも製作にかかわりましたか。

 スミン演じるダーハーが彼女のレイレイに歌う場面は、当初別の歌があった。しかし歌わせてみたら、なかなかうまく歌えない。それでスミンに「あなたの歌の力で、彼女が涙を流すものを書いてほしい」と。最後に完成したのはあの曲だった。

3.jpg

 ──台北市主催の合同結婚式のシーンには、市長さんも出ましたね。

 正直に言うと、バレンタインの一日にしぼったので、使える材料が多くない。あらゆる可能性、エピソードをすべて盛り込み、やっと一日が成立した。市長は出演を快諾してくれた。スターになりたかったのかもしれないね(笑)。

人々が夢を失い、小さなことに幸せを感じている

 ──監督は製作理由の一つとして、台湾社会の空気が暗くて重いことを挙げていました。どこに感じますか。

 「暗い」とはいえない。人が夢を失っている。私も50歳近いが、若い時は夢があった。努力して実現したかった。今の若者には夢がない。家賃も不動産も高く、経済も政治もよくない。

 台湾では今「小確幸(小さくても確かな幸せ)」という言葉がはやっている。たとえばちょっと質のいいビールを飲めたり、安く買い物ができたなど、人々がちっぽけなことに幸せを感じている。努力してもだめなので、夢を持たない。大きな幸せを求める気持ちが消えている。だからこういう映画を撮った。夢を追ってほしかった。

 ──日本と同じ状況ですね。

 世界中どこでも、大都会で暮らしている人はほとんどそうだろう。20代の人たちは夢がない。30代は夢があるけれど、なかなか実現できず、だんだん夢を抱かなくなっている。30代の少なくない人たちが独身を選んでいるのは、世の中が不確実だから。他人を迷惑をかけたくないと思っている。

 ──エピソードを作る際、かなり調査しましたか。

 それほどしなかった。自分は普通の人間。生活も普通。周りの人たちも普通の人ばかり。彼らの姿、話し方、考え方はよく理解できる。映画の物語は、自分自身の経験から出た。社会で直面している問題と、自分の経験を組み合わせた。

 ──「海角七号 君想う、国境の南」に「52Hzのラヴソング」と、歌が重要な役割を果たしています。監督の映画に音楽は重要ですか。

 音楽は好きだけれど、得意なわけではない。映画の中でほしい音楽は、よく分かっている。脚本の段階で映像、音楽に対する感覚が全部つかめている。

 シャオヤンが屋上で歌う場面は、最後に完成した。もともとの歌ができて歌わせたが、どうもしっくりこない。彼は愛とは何か、孤独とは何かの代弁者。何度も直しても合わないので、作曲家に要求した。シャオヤンが屋上に立ち、街の風景を長め、独り言のように歌い出す。心の中から独り言が流れるように書いてほしい、と頼んだ。それでできたのがあの曲だ。

(文・写真 遠海安)

「52Hzのラヴソング」

「52Hzのラヴソング」(2017年、台湾)

監督:ウェイ・ダーション
出演:リン・ジョンユー、ジョン・ジェンイン、スミン、チェン・ミッフィー、リン・チンタイ

2017年12月16日(土)、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.52hz.jp/

作品写真:(C)2017 52HzProduction ALL RIGHTS RESERVED.

posted by 映画の森 at 11:07 | Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする