2017年10月19日

「あゝ、荒野」菅田将暉&ヤン・イクチュン、熱くぶつかり「胸いっぱいに」

1.jpg

 寺山修司原作の映画「あゝ、荒野」前編が2017年10月7日公開され、東京・丸の内で主演の菅田将暉、ヤン・イクチュンら出演俳優と岸善幸監督が舞台あいさつした。

 原作の舞台を近未来の新宿に移し、純粋で無鉄砲な性格の新次(菅田)と、引っ込み思案で吃音に悩む研二(ヤン)が、運命に導かれるように出会い、ぶつかり合う過程を描く。前・後編合わせて305分の長編だ。

3.jpg

 観客の掛け声の中、ボクシングの試合を思わせる呼び込みで登場したヤンと菅田。菅田は慣れない演出に照れながら「本編では照れずにやってます。楽しんでください」と挨拶。ヤンも「あふれるエネルギーの渦に巻き込まれると思います」と誇らしげに語った。

 ボクサーとして二人を育てるトレーナー役のユースケ・サンタマリアは「昨年ひと夏撮影をした日々がよみがえり、泣くのをこらえるのに必死です」と感慨深い様子。新次のライバルを演じた山田裕貴は「参加していても衝撃で、役を生きたと思える。皆さんの心を揺さぶり、ノックアウト間違いなし」と語った。

2.jpg

 岸監督は「ボクシングシーンも濡れ場も激しい映画。出演者は美しい肉体をさらけ出して頑張ってくれた。この映画に込めた愛を感じてもらえればうれしい。ボクシング映画でもあり、ラブストーリーでもある」と語った。

 305分の長編。ヤンは「初めは短い一本の映画だと思っていた。前編、後編になると撮影の途中で知りました」と話すと、菅田に「3カ月も撮影していたら気づくでしょ。なんで誰も教えなかったの?」と突っ込みを入れられる一幕も。

 ヤンは「500分を超えても飽きないと思う」と自信を示し、菅田は「岸監督は編集が好きな人。70時間撮ったものを何とか5時間に収めた」と明かした。監督も「あと2時間は長くしたかった」と語るなど思いは尽きない様子だった。

 韓国映画「息もできない」で強面のイメージのあるヤン。高橋が「ヤンさんのかわいさにスタッフが惚れてました」と話すと、菅田も「途中からこの映画はヒロインが芳子(木下あかり)とバリカン(ヤン)の二人なのかなと思った」と話して場内を沸かせた。

 最後に「胸がいっぱいになる作品。素晴らしい原作、素晴らし俳優、素晴らし撮影を経て、いい作品が生まれた」とヤン。菅田は「かかわった人の思いがこんなに熱いことはない。平成の時代にもそういう輪が広がることがあるんだなと嬉しく思う」と観客に語りかけた。

(文・写真 岩渕弘美)

「あゝ、荒野」(2017年、日本)

監督:岸善幸
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、モロ師岡、高橋和也

2017年10月7日(土)前編、10月21日(土)後編、新宿ピカデリーほかで2部作連続公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kouya-film.jp/

作品写真:(c)2017「あゝ荒野」フィルムパートナーズ

フォトセッション 左から 岸善幸監督 木村多江、ユースケ・サンタマリア、ヤン・イクチュン、菅田将暉、木下あかり、高橋和也、山田裕貴

posted by 映画の森 at 11:33 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月18日

「セブン・シスターズ」ノオミ・ラパス、一人「7役」 変幻自在の役作り

1.jpg

 人口過多と食糧不足から、厳格な一人っ子政策が敷かれた近未来。2人目以降の子供は政府の児童分配局が親から引き離し、地球資源が回復する日まで冷凍保存する。セットマン家の7つ子姉妹は、唯一の身寄りである祖父に各曜日の名前が付けられた。それぞれ週1日ずつ外出し、共通の人格を演じて30歳まで生き延びた。しかし、ある日“月曜”が帰らず、姉妹の日常は狂い始める──。

 一度は「映像化は不可能」と判断されたものの、脚本が書き直され、ノルウェー出身のトミー・ウィルコラ監督が映像化した「セブン・シスターズ」。当初は男兄弟の話だったが、監督が「ラパスに演じさせたい」と希望。姉妹に設定を変えて実現したアクション・スリラーだ。

2.jpg

 近未来を描いたSF映画は、大きく二つに分けられる。当局による管理社会を描いたものと、核戦争などで荒廃した世界を描く「ディストピアもの」だ。今回は管理社会ものに分けられるだろう。

 遺伝子組み換え作物の影響で多胎児が増えたため、政府は一人っ子政策を徹底する。1人以外の子どもはすべて冷凍保存され、資源が回復した時に「解凍」される約束だ。人々の行動は厳しく管理され、いたるところに検問所がある。そんな中で生まれたのが、主人公の七つ子姉妹だった。

 母親が死んだため、七つ子は祖父テレンス・セットマン(ウィレム・デフォー)に引き取られ、アパートの隠し部屋で育てられる。曜日の名前を持つ7人は、共通の人格「カレン・セットマン」を演じ続ける。

 エリート銀行員となったカレンだったが、“月曜”が出勤したまま行方不明にに。足跡をたどった“火曜”もケイマン博士(グレン・クローズ)率いる児童分配局に連行され、残った5人にも当局の魔の手が迫っていた。

3.jpg

 「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(09)でブレイクしたスウェーデン出身のラパス。ハリウッド進出して活躍中だが、「プロメテウス」(12)、「ラプチャー 破裂」(16)と災難に見舞われる役が続く。性格の違う七姉妹を一人で演じた分けた変幻自在な役作りが際立ち、裏に人口増加に警鐘を鳴らす深刻なテーマが見え隠れする。不可能を可能にした斬新な映像技術と、ひねりが効いた切り口の近未来映画の佳作である。

(文・藤枝正稔)

「セブン・シスターズ」(2017年、英・米・仏・ベルギー)

監督:トミー・ウィルコラ
出演:ノオミ・ラパス、グレン・クローズ、ウィレム・デフォー、マーワン・ケンザリ、クリスティアン・ルーベク

2017年10月21日(土)、新宿シネマカリテほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.7-sisters.com/

作品写真:(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 15:26 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月15日

第22回釜山国際映画祭2017、今年も盛大に 日本から有村架純らも参加

少女時代ユナ、チャン・ドンゴン.JPG

 アジア最大級の映画祭「第22回釜山国際映画祭2017」が、韓国・釜山市で開催されている。同市海雲台地区の「映画の殿堂」で行われたオープニング・セレモニーでは、国内外のスターが次々にレッドカーペットを歩いて祭りに華を添えた。21日まで76カ国・地域の約300本の映画を上映する。

 レッドカーペットには開幕作「ガラスの庭園」のシン・スウォン監督と主演のムン・グニョン、司会を務めるチャン・ドンゴンと「少女時代」のユナらが登場。秋雨が降る肌寒い気候のなか、観客の熱い歓声が響いた。「ナラタージュ」の行定勲監督と有村架純、「彼女がその名を知らない鳥たち」の白石和彌監督と蒼井優が姿を見せると会場からひときわ大きな声援が送られていた。

有村架純、行定勲監督.jpg ムン・グニョン、シン・スウォン監督.JPG

 今年は日本映画が合作を含め41本に上り、外国映画では最大となる。「あゝ、荒野」(岸義幸監督)や「アウトレイジ」(北野武監督)など話題作も上映される。

 釜山映画祭は、2014年の政権批判のドキュメンタリーの上映をきっかけに映画祭と釜山市が対立し、昨年は組織改編を経て中断の危機を免れた。今年のセレモニーには昨年不参加だったソ・ビョンス釜山市長が出席して和解をアピールした。

中山美穂、キム・ジェウク.JPG SHINee ミンホ.JPG アン・ソンギ.JPG
ソ・シネ.JPG ムン・ソリ.JPG ソン・イェジン.JPG

ムン・グニョン、大人への脱皮
 開幕作「ガラスの庭園」は、葉緑体を使った人工血液を研究する女性が、後輩の女性に研究テーマと愛する男性を奪われ、森の中に閉じこもる物語。スランプ中の作家が偶然知った彼女に興味をもち、森での暮らしを盗み見て連載小説を書きはじめるが、やがて作家は衝撃的な光景を目撃する。

 2010年の東京国際映画祭で「虹」が最優秀アジア映画賞を受賞したシン・スウォン監督の新作。幻想的な森を舞台に、ファンタジーとミステリーの要素を巧みに織り込んだ。韓国で「国民の妹」と呼ばれる子役出身のムン・グニョンが愛らしい子役のイメージから脱皮し、ひたむきな女性の強さと危うさを繊細な感性で演じた。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美) 
posted by 映画の森 at 11:24 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月03日

「パーフェクト・レボリューション」困難に挑む“最強のふたり” 愛は障害を乗り越えるか

1.jpg

 幼少時に患った脳性麻痺のせいで、手足が思うように動かせない男、クマ(リリー・フランキー)。体こそ不自由だが、性欲は旺盛だ。エロ本を買いに書店へ行けば、女性店員のスカートの中や胸の谷間を凝視。自宅には自慰に使う“テンガ”がゴロゴロ。クマはそんな自分のスケベさを恥じるどころか、積極的に公表し、障害者への偏見をなくす啓蒙活動をしている。

 クマに共感し、恋心をいだくのが、風俗嬢のミツ(清野菜名)だ。直情径行型のミツは、講演会で話すクマに一目惚れし、その場で猛烈アタック。最初は迷惑がるクマだったが、やがて情にほだされ、相思相愛に。

2.jpg

 長年クマの介助を担ってきたヘルパーの恵理(小池栄子)、親代わりにミツの世話をしてきた占い師の晶子(余貴美子)。少数ながらよき理解者のサポートを得て、交際を続ける二人だったが、現実は甘くない。

 実はミツには人格障害があり、感情が不安定。ちょっとしたことで、自分や他人を攻撃し傷つける危険性を秘めている。世間の無理解や、好奇の目に加え、彼女の暴発も、二人にとっては高いハードルだ。これらの障壁を二人は乗り越えられるのか。幸せをつかむことができるのか――。

3.jpg

 脳性麻痺をかかえる市民活動家、熊篠慶彦の実話をベースにしたフィクションである。クマとミツとのラブストーリーを軸に、彼らを取り巻くさまざまな人々との関わりも描かれる。その中で垣間見えてくるのが、彼らの人生の闇の部分だ。テレビ局からの取材に「両親から愛されて育った」と嘘をつくミツ。クマの父親の法事の席で、「クマの世話に明け暮れ人生を犠牲にした」と告白する親族。

 天真爛漫に見える二人だが、実は心に屈託をかかえており、葛藤にもだえている。全体にポップでユーモラスな演出が貫かれているからこそ、随所に露呈するリアルな現実が、見る者の心に突き刺さる。「ぐるりのこと。」(2008年)、「凶悪」(2013年)のリリー・フランキー、「TOKYO TRIBE」(2014年)の清野菜名。ともに全身全霊の熱演で、深い感動を誘う。

 監督は「まだ、人間」(92年)、「最後の命」(2014年)の松本准平。シリアスな作風から一変した印象だが、追求されているテーマは一貫しているように思える。すなわち「人間はみな平等で、互いを分け隔てる壁など存在しない」という信念だ。本作中の「生まれも、性別も、職業も、能力も、お金も、年齢も、幸せには関係ない」というミツのセリフに、それは集約されている。

 障害者だからと手心を加えるのではなく、同じ人間として対等に向き合い、接すること。同情は無用。必要なのは、共感すること、共鳴すること。重要なのは、同じ高さで見つめ合うこと。クマとミツのラブストーリーは、そんな信念の上に成立しているのである。

(文・沢宮亘理)

「パーフェクト・レボリューション」(2017年、日本)

監督:松本准平

出演:リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、余貴美子

2017年9月29日(金)、TOHOシネマズ新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://perfect-revolution.jp/

作品写真:(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 10:34 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする