2017年10月27日

「彼女がその名を知らない鳥たち」蒼井優+阿部サダヲ+松坂桃李、絡み合う愛憎劇

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 2006年に出版された沼田まほかるの同名小説を、「凶悪」(13)、「日本で一番悪い奴ら」(16)の白石和彌監督が映画化した。

 舞台は大阪。建設会社で働く15歳年上の陣治(阿部サダヲ)の部屋に、働きもせず居候する十和子(蒼井優)。腕時計を買ったデパートにネチネチとクレームを入れる。レンタルビデオ店で「借りたDVDが再生できない」と難癖をつける。“クレーマー”十和子の日課は、近所の食堂で軽く一杯飲んで帰宅することだった。

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 陣治の前では女王気取りの十和子だが、8年前に別れた恋人・黒崎(竹野内豊)に未練たっぷり。陣治と十和子は男女の関係はなく、同居人のようだった。陣治は十和子に「不潔だ」、「下品だ」とののしられながら、無償の愛を捧げる。が、十和子から見れば陣治は迷惑で目障りでしかなかった。

 ある日、十和子の前に男が現れる。彼女がクレームを入れたデパート時計売り場の主任・水島(松坂桃李)だ。十和子の腕時計が修理できず、代わりの品をみつくろい、わざわざマンションまで持ってきたのだ。十和子は交換を断るが、水島の真摯な態度に思わず涙する──。

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 本格的な恋愛映画をうたっているが、登場するのは最低な人間ばかり。甘い物語を期待すると痛い目にあう。十和子が放つ負のオーラが全体を覆いつくし、取り巻きの男たちの下衆な素性が明らかになっていく。ミステリーの要素もある作品だ。

 ポイントは絶妙なキャスティングにある。蒼井優が貪欲で自堕落な女を悠々と好演。これまで好青年を演じてきた松坂桃李は計算高い下衆男、竹野内豊まで女を踏み台にするDV男。見た目で損する阿部サダヲの純愛こそ核心になるのだ。

 陰湿で辛辣な展開が続く前半から中盤。一転、後半に思い切り恋愛に舵を切り、バランスが悪くなった。しかし、白石監督の的確な描写を積み重ねる語り口は健在。十和子の心理を投影した幻想描写にはっとさせられる。監督は妥協せずに個性を保ち、新たな演技と魅力を引き出した。どす黒い欲望と相反する純愛。絡み合う境地を描いた作品だ。

(文・藤枝正稔)

「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年、日本)

監督:白石和彌
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋

2017年10月28日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kanotori.com/

作品写真:(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

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2017年10月24日

「星空」思春期の少女の心象風景 ファンタジックな映像で 台湾トム・リン監督名作

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 裕福な環境で育った13歳の少女。はた目には恵まれているように見えるが、両親の仲は冷え切っていて、家庭にぬくもりはない。寂しさを紛らわすように、少女は幸せだった幼い頃の思い出にふける。祖父とともに過ごした山の中で見た満天の星。もう一度、あの星空を見たい。祖父に会いたい。しかし、夢はかなわぬまま、祖父は亡くなってしまう。

 そんな少女の前に、1人の少年が現れる。少女の家の真向かいに越してきた転校生だった。少年はいつもスケッチブックを持ち歩き、卓越した画才の持ち主だ。しかし、描いているのは裸婦像ばかり。たちまち少年はクラスで浮いた存在となる。

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 同級生にいじめられる少年。加勢した少女はけがを負い、二人は意識し合う仲となる。ところが、少年は突然母親から転居を告げられる。DV(ドメスティック・バイオレンス)が原因で別れたはずの父が、居場所を突き止め、追ってきたのだ。一方、少女も両親から離婚を宣言される。少女は「星を見に行かない?」と少年を誘う。森、湖、山小屋、そして星空。古い思い出が蘇り、新しい思い出がつむがれる――。

 親しくなった少年と少女が、親の都合で引き離される。成瀬巳喜男監督の名作「秋立ちぬ」(60)を思い出す。少年の視点から、大人の身勝手さに翻弄される子どもの切なさ、やるせなさを、リアリズムの手法で描いた成瀬作品に対し、トム・リン監督は、少女の視点からファンタジー色強く描いている。

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 駅の待合室に降り積もる雪。巨大化して少女に付き従う木彫りの動物たち。星の瞬く夜空を疾走する列車。残酷な現実に抗するように表れる少女の心象風景が美しくも悲しい。

 エピローグには、成長した少女の役でグイ・ルンメイが登場。直前に投げかけられる謎と、ラストのサプライズをお見逃しなきよう。

(文・沢宮亘理)

「星空」(2011年、台湾・中国)

監督:トム・リン
出演:シュー・チャオ、リン・フイミン、レネ・リウ、ハーレム・ユー、ケネス・ツァン、ジャネル・ツァイ、シー・チンハン、グイ・ルンメイ

2017年10月28日(土)、K's cinemaほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://hoshizora-movie.com/

作品写真:(c)HUAYI BROTHERS MEDIA CORPORATION TOMSON INTERNATIONAL ENTERTAINMENT DISTRIBUTION LIMITED FRANKLIN CULTURAL CREATIVITY CAPITAL CO., LTD ATOM CINEMA CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

タグ:レビュー
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2017年10月23日

第22回釜山国際映画祭(2) 中山美穂、新作「蝶の眠り」でレッドカーペット キム・ジェウク共演の純愛作品

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 第22回釜山国際映画祭は、招待作品約300本のうち41本が合作を含む日本映画だった。映画祭の運営側と行政の対立がいまだ解消されていないため、韓国の一部の映画人は今年もボイコットを続け、スター不在の映画祭とも揶揄(やゆ)された。そんな中、日本から大勢のスターが釜山を訪れ、祭りを盛り上げるのに一役買った。

 韓国で「ラブレター」(95)の記憶がいまだ鮮烈な中山美穂は、新作「蝶の眠り」でレッドカーペットを歩き、ファンやメディアの熱い視線を浴びた。

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 「蝶の眠り」は、遺伝性の認知症に侵された人気作家の涼子(中山美穂)と、韓国から来た留学生チャネ(キム・ジェウク)の年齢を超えた純愛がテーマ。悲劇的運命を知りながらも自分を見失わない、自立した女性の強さを、中山が感情を抑制した演技で表現する。

 「子猫をよろしく」(01)のチョン・ジェウン監督を迎えて日本で撮影された。監督はここ数年、建築と都市空間をテーマにしたドキュメンタリーの製作に打ち込んでおり、劇映画の演出は12年ぶり。韓国では男性的な映画が全盛で女性が主人公の映画は多くないが、監督は「女性監督なので女性を描くのには自信がある」と完成度に自信をにじませた。

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 監督は当初から主演に中山を想定していたといい、会見で「中山が引き受けてくれたからこそ作れた映画」と感謝を伝えた。言葉が通じない環境での演出には不安もあったが、「俳優の選択と表現を信じた」。チャネ役のキム・ジェウクはネイティブレベルの日本語がキャスティングの決め手になった。監督が通訳以外で唯一、韓国語で会話ができる存在だったため、現場では心の支えになったという。

 韓国で「ラブレター」が封切られたのは、日本の大衆文化が解禁された直後の1999年。幻想的な雪景色を背景にしたラブストーリーは一大ブームを巻き起こし、中山の劇中のせりふ「お元気ですか」は流行語になった。13年と16年にもリバイバル上映され、人気は根強い。中山は会見で「ラブレター」がいまだに韓国人の記憶に残っていることを問われ、「長く愛されているのは作品の力。恩恵を受けてありがたい」と話した。

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 徐々に記憶を失っていく「蝶の眠り」の役どころについては「実際には病気ではないので本当の気持ちは分からなく、難しかった。監督の考えている世界を演じられるように努力した」と振り返った。また、キム・ジェウクについては「感情を大事にしてそれを演技にぶつけてくる。その情熱に応えたいという気持ちで演じた」と話し、「先が楽しみな俳優」と付け加えた。

 「蝶の眠り」は来春、日韓で公開予定。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美 芳賀恵)

【写真】
1:レッドカーペット 中山美穂×キム・ジェウク
2:記者会見 中山美穂×チョン・ジェウン監督
3:トークイベントでムン・ソリと登壇した中山美穂=いずれも同映画祭で
4:「蝶の眠り」場面写真=同映画祭事務局提供

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2017年10月22日

「セブン・シスターズ」7つ子VS一人っ子政策 ノオミ・ラパス1人7役

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 爆発的な人口増と深刻な食糧難に直面する近未来社会。当局は、一家族につき出産は1人のみとする“一人っ子政策”を強行する。違反すると、2人目以降の子供は冷凍保存。地球環境の回復を待ち、解凍・蘇生させる約束だが、保証はない。そんな中、ある病院で7つ子の姉妹が生まれる。発覚すれば6人が冷凍されてしまう。

 死亡した母親に代わって孫娘たちを引き取った祖父は、7人全員を守るため、秘策を思いつく。それは、7つ子を1人の子に見せかけること。マンデー(月曜)からサンデー(日曜)まで、曜日の名を付けられた7つ子は、それぞれの曜日に交代で外出し、カレン・セットマンという共通人格を演じるのだ。

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 幸運にもトリックは見破られることなく、成人した姉妹は銀行員としてエリート街道を歩んでいる。ところが、ある日、マンデーが出勤したきり行方不明に。2人同時に目撃されるリスクはあったが、姿を見せなければ怪しまれる。翌日、チューズデー(火曜)は勇を鼓して出勤。残りの姉妹たちと連絡を取り合いながらマンデーの行方を追うのだが――。

 中盤から始まるバトルが見ものだ。“児童分配局”から差し向けられた武装軍団と姉妹たちとの熾烈な闘い。中でも、身体能力に秀でたウェンズデー(水曜)が男たち相手に繰り広げる激闘は迫力満点だ。1人また1人と姉妹たちを失いながらも、終盤のクライマックスに至り、サーズデー(木曜)はついにマンデー失踪の真相を探り当てる。そこで彼女が目にした恐るべき秘密とは?

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 一卵性ゆえ見た目はそっくりだが、性格や能力は七人七色。微妙に異なる7人を、「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」(09)、「プロメテウス」(12)のノオミ・ラパスが精妙に演じ分けている。7人のラパスが一堂に会する映像は圧巻だ。

 献身的な祖父役はウィレム・デフォー、児童分配局の悪玉役はグレン・クローズ。どっしりと脇を固め、ノオミ・ラパスの独壇場を盛り上げる両名優の見事な役作りにも注目したい。

 地球規模の人口爆発、そして産児制限。実際に起きている現象だ。解凍技術は未開発ながら、人体の冷凍保存も現実に行われている。近未来SFだが、設定はリアル。人類の明日を予言したような怖さが漂う映画だ。

(文・沢宮亘理)

「セブン・シスターズ」(2016年、英・米・仏・ベルギー)

監督:トミー・ウィルコラ
出演:ノオミ・ラパス、グレン・クローズ、ウィレム・デフォー

2017年10月21日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.7-sisters.com/

作品写真:(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
posted by 映画の森 at 17:30 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月19日

「アトミック・ブロンド」シャーリーズ・セロン、圧巻の体当たりアクション 冷戦末期のベルリン、絡み合う諜報合戦

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 1989年秋、ベルリン。冷戦末期、ベルリンの壁崩壊前夜、英諜報員が殺され、極秘のスパイリストが強奪された。英諜報機関「MI6」にリストの奪還を命じられたロレーン(シャーリーズ・セロン)は単身現地に潜入するが、敵国ソ連が放った刺客に襲われる。協力者のはずのMI6ベルリン支部の敏腕諜報員パーシバル(ジェームズ・マカボイ)も不穏な行動だ。東西ベルリンを行き来しながら危険なミッションを遂行するロレーンだったが、監視と盗聴、非常な罠で絶体絶命の窮地に陥る。

 2012年に発表されたグラフィック・ノベルを実写化。監督は「ジョン・ウィック」(14)の製作、共同監督を務めたデビッド・リーチ。スタイリッシュなスパイアクションだ。

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 冷戦末期のドイツでは、極秘スパイリストを巡り、英、東独、仏、ソ連のスパイたちが血眼になって任務を遂行していた。スパイリスト奪還のため、MI6がベルリンに送り込んだのがロレーンだ。

 ベルリンの任務を終えたロレーンが、MI6の取り調べ室で主任のグレイ(トビー・ジョーンズ)、協力関係にある米米中央情報局(CIA)主任カーツフェルド(ジョン・グッドマン)に尋問を受けている。物語はそんな任務終了後と、任務を回想する現在の二層構造で展開する。

 アクション満載の作品を牽引するのは製作、主演を務めたセロンだ。MI6の取り調べ室でふてぶてしく取り調べに応じるセロンは、尋常ではない傷だらけの姿。観客は「何があったのか」と疑問を持ったところで、理由がロレーンの口から語られる。ドイツに到着したロレーンは直後から刺客に狙われ、普通なら死んでもおかしくない危機を、敏腕スパイならではの勘と戦闘能力で乗り越えた。

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 中でも凄いのは、ビルの階段と部屋を舞台にセロンに襲いかかる複数の刺客との7分半の死闘を、ワンカットでとらえたシーンだ。「接近戦のプロ」のセロンは銃やナイフで襲いくる刺客に丸腰で戦う。圧倒されるアクションだ。よく見るとところどころ流血し、どんどん傷だらけになっていく。驚異のワンカット撮影に加え、最新の映像処理の進歩。スタントマン出身の監督ならではのたたみかける演出だ。

 スパイたちのだまし合いも秀逸。壁崩壊間近の混沌としたベルリンに、潜伏しながら活動する怪しいパーシバル。フランスの女スパイ、ラサール(ソフィア・ブラガ)。敵か味方か分からぬスパイたちにロレーンは惑わされる。

 最近は「007」、「ミッション・インポッシブル」など老舗スパイ映画の好調ぶりが印象的だが、「アトミック・ブロンド」は大胆不敵な生身アクションを全編に投入しながら、セロンの新たな魅力を引き出した。テンション高めな女スパイ映画である。

(文・藤枝正稔)

「アトミック・ブロンド」(2017年、米)

監督:デビッド・リーチ
出演:シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカボイ、エディ・マーサン、ジョン・グッドマン、トビー・ジョーンズ

2017年10月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://atomic-blonde.jp/

作品写真:(C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 13:48 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする