2016年12月08日

映画祭を振り返る(3)東京国際映画祭ブラジル映画「空の沈黙」事件と恐怖、燃え上がる復讐の炎 緊張途切れぬサスペンス

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 第29回東京国際映画祭(2016年10月25日〜11月3日)コンペティション部門出品のブラジル映画「空の沈黙」。アルゼンチンの作家セルジオ・ビジオ原作のサスペンスだ。監督は長編デビュー作「Hard Labor」(11)が、カンヌ映画祭「ある視点」部門に出品されたマルコ・ドゥトラ。

 映画は衝撃的に幕を開ける。主人公の女性ディアナ(カロリーナ・ジッケマン)はが自宅で見知らぬ若い男2人にレイプされ、男たちは逃走する。心身に深い傷を負ったディアナは、事件を心にしまい込み、いつも通り笑顔で帰宅した夫と子供を迎える。

 時は少し前に戻る。帰宅したディアナの夫マリオ(レオナルド・スバラーニャ)は、妻のレイプ現場を目撃してしまう。悲痛な声を上げる妻を助けたい一心で、マリオは犯人に立ち向かおうとするが、恐怖が先に立ちそのまま逃がしてしまう。

 夫妻は互いにおぞましい事件を心に隠し、何もなかったのように過ごすことを決意する。しかし、それぞれのどの奥に棘が刺さったように、重い気持ちに苦しめられる。マリオは自分を許せず、自責の念に苦しんでいた。妻の尊厳を踏みにじった男たちを許せず、復讐を決意する──。

 夫の視点で描かれた原作を、映画では妻の視点も加えて描いたという。事件に直面した夫妻の視点を少しずらして描くことで、二人のショックを観客は時間差で味わう。追い詰められた二人の心理はモノローグで吐露される。巧みな構成だ。夫はスペイン語、妻はポルトガル語が母語。交わらない言葉のように、夫妻は互いに沈黙する。

 随所にサボテンが登場する。直接的な痛みや恐怖の隠喩となり、マリオを復讐の迷宮へ導く。犯人の男2人は大きな園芸店で働いていた。都会の風景と隔絶した異空間。薄っすらもやがかかった迷宮で、犯人を見たマリオの心に復讐の花が開く。

 極限状態に置かれた夫が、復讐を実行に移す過程がスリリングだ。心理をじっくり掘り下げる演出は、ブライアン・デ・パルマ監督、アルフレッド・ヒッチコック監督に通じる。視点を前半は夫、やがて妻へと移し、対の関係にしたところもうまい。不条理な暴力を真正面から描き、復讐に揺れる心理を深く掘り下げる。一本筋が通った良作だ。

(文・藤枝正稔)

「空の沈黙」(2016年、ブラジル)

監督:マルコ・ドゥトラ
出演:レオナルド・スバラーリャ、カロリーナ・ジッケマン、チノ・ダリン、アルバロ・アルマン・ウゴン、ミレージャ・パスクアル

第29回東京国際映画祭コンペティション部門出品作。作品の詳細は映画祭公式サイトまで。

http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=27

作品写真:(C)RTFeatures
posted by 映画の森 at 09:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | ブラジル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする