2016年12月31日

「MERU メルー」ヒマラヤ最難関の絶壁へ 男たちの命をかけた挑戦

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 ヒマラヤ山脈メルー中央峰にそそり立つ“シャークスフィン”。並みいるトップクライマー(登山家)たちの挑戦をことごとく退けてきた難攻不落の絶壁に、3人の強者が挑んだ。伝説の名クライマー、コンラッド・アンカー。カメラマンでもある百戦錬磨のジミー・チン。気鋭の若手、レナン・オズターク。

 コンラッドとジミーはコンビ歴10年。気心の知れた間柄だが、レナンはまだ無名。命綱を付けずに険しい崖を登攀する姿にコンラッドが惚れ込み、仲間に加えた。信頼できる相手としか組まない慎重なジミーも、相棒が認めた男ならとレナンを受け入れた。

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 かくして最強のチームが誕生する。しかし、最初のアタックは失敗。さまざまなアクシデントに見舞われ、山頂まで100メートルの地点でやむなく引き返した。凍傷で腐りかけた足が、挑戦の凄まじさを物語る。

 下山後しばらくは車椅子生活。「もう2度と挑むまい」と一度は誓い合った3人だったが、3年後、呼び戻されるように再び絶壁に挑む。最初のアタック後、レナンは滑落事故で重傷を負い、再起不能の危機に追い込まれていたが、超人的な精神力で復活した。

 先行者が蹴り砕く氷のかけらが後続者の頭上に降り注ぐ。宙吊りのテントを吹雪が激しく揺らす。死と隣り合わせの試練が続き、ついに山頂が眼前に迫る――。

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 ジミーとレナンによって撮影された実際の映像が、過酷なクライミングの実態を生々しく伝える。CG(コンピューター・グラフィックス)も再現映像も使わない、正真正銘のドキュメンタリーならではの迫力だ。インタビューや私生活の映像は3人のバックグラウンドを語る。彼らを登山に駆り立てるものが何なのか。想像がかきたてられる。

 単なる山岳映画ではない。友情、愛情、勇気、忍耐。人間にとって大切な感情や精神を描いたヒューマンドラマでもある。

(文・沢宮亘理)

「MERU メルー」(2015年、米国)

監督:ジミー・チン、エリザベス・チャイ・バサヒリィ
出演:コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズターク、ジョン・クラカワー、ジェニー・ロウ・アンカー

2016年12月31日(土) 、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー、109 シネマズ二子玉川ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://meru-movie.jp/

作品写真:(c) 2015 Meru Films LLC All Rights Reserved.
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2016年12月28日

「ブラック・ファイル 野心の代償」ホプキンス×パチーノ、巻き込まれ型サスペンス

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 全米を牛耳る巨大製薬会社。世間ではその薬害も報じられていたが、被害者弁護団は証拠をつかめずにいた。野心家の若手弁護士ベン・ケイヒル(ジョシュ・デュアメル)は、金髪美女の元彼女から機密ファイルを受け取り、予想外の展開に巻き込まれていく──。

 「トランスフォーマー」シリーズのデュアメル主演のサスペンス映画だ。共演に「羊たちの沈黙」(91)のアンソニー・ホプキンス、「ゴッド・ファーザー」シリーズのアル・パチーノ、「G.I.ジョー」(09)のイ・ビョンホン。ホプキンスとパチーノは初共演。監督は「THE JUON 呪怨」(04)共同製作者のシンタロウ・シモサワ。テレビドラマの脚本を多く手がけ、今回が監督デビュー作となる。

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 いわゆる“巻き込まれ型サスペンス”。物語の入り口はオーソドックスだが、既婚のケイヒルが元彼女エミリーとSNSでつながり、再会して予想外の方向へ展開する。エミリーは疑惑の巨大製薬会社のCEO(最高経営責任者)、デニング(ホプキンス)の交際相手だった。美しいエミリーに「不正の証拠を収めたファイルを渡す」と言われ、ケイヒルは誘惑に負けてしまう。

 弁護士として名を挙げたい一心のケイヒル。ファイルを手に入れた後、弁護士事務所オーナーのエイブラムス(パチーノ)に「製薬会社を訴えたい」と求めて了承される。しかし、訴訟の準備に入ったものの、予想外の事件が起きて歯車が狂い始める。

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 主人公が妖艶な美女のわなに落ちる筋書き。ヒッチコックの「巻き込まれ型サスペンス」の流れをくんでいる。さらにエロチックな要素を絡めた点は、ブライアン・デ・パルマ作品にも通じる。どこか冷めたケイヒル夫妻の関係、全体に冷たい画面はデビッド・フィンチャーの香りか。

 ケイヒルを襲う謎のアジア人役にイ・ビョンホン。「ターミネーター 新起動 ジェニシス」(15)で未来から来た殺人マシンを演じて以降、ハリウッドでは殺し屋のイメージが定着してしまった。

 “巻き込まれ型”としてはよくできているが、着地点がなし崩し的で惜しい。しかし、大オチにひとひねり加えて体勢を整え、独特の余韻を残して幕を下ろした。名作をうまく噛み砕き、吸収したシモサワ監督。次回作にも期待したい。

(文・藤枝正稔)

「ブラック・ファイル 野心の代償」(2016年、米国)

監督:シンタロウ・シモサワ
出演:ジョシュ・デュアメル、アンソニー・ホプキンス、アル・パチーノ、イ・ビョンホン、アリス・イブ

2017年1月7日(土)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://blackfile.jp/

作品写真:(C)2015 MIKE AND MARTY PRODUCTIONS LLC.ALL Rights Reserved.
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2016年12月27日

「ダーティ・グランパ」デ・ニーロ×エフロン、黒い笑い全開 祖父と孫のフロリダ珍道中

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 1週間後に結婚を控えた真面目な弁護士ジェイソン(ザック・エフロン)。急逝した祖母の葬式で、意気消沈する祖父ディック(ロバート・デ・ニーロ)に再会。傷心解消のフロリダ旅行へ連れ出される──。

 「ゴッドファーザーPart2」(74)、「タクシー・ドライバー」(76)、「ケープ・フィアー」(91)などの名優デ・ニーロ。「ミート・ザ・ペアレンツ」シリーズ、「リベンジ・マッチ」(13)で見せたコメディー・センスをいかんなく発揮し、独身になって40年封印してきた女、酒、クスリなど悪事を解禁。文字に起こすのも恥ずかしいエピソードを堂々と演じていく。

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 真面目な孫ジェイソン役のエフロンも、負けず劣らず恥をかなぐり捨てた演技だ。ほぼ全裸で踊り狂い、得意の歌で観客を魅了。堅物の弁護士だったはずが誤ってクスリに手を出してしまい、祖父も手を付けられないほど羽目を外す。二枚目マッチョなエフロンと元気老人デ・ニーロ。化学反応をうまく起こさせ、予想外の笑いを引き出した。

 監督はサシャ・バロン・コーエン主演のコメディー「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(06)を製作した英国出身のダン・メイザー。長くコーエンと組んで創作し、今回は劇場公開2本目となる。軽いタッチのドラマに、えげつなく下品な笑い。「メリーに首ったけ」(98)のファレリー兄弟、「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップスの流れをくみ、ブラックで過激な喜劇だ。

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 最近は年を取って元気のなかったデ・ニーロが、台風のごとく行く先々で騒動を起こす。巻き込まれながら新たな自分を発見するエフロンも素晴らしい。コメディー演技に目覚めさせた監督の手腕に拍手を送りたい。「リーサル・ウェポン」シリーズのダニー・グローバーが、少しだけ顔を出すシーンもうれしい。ぶっ飛んだ祖父と孫の痛快な“バディ・コメディー”だ。

(文・藤枝正稔)

「ダーティ・グランパ」(2016年、米国)

監督:ダン・メイザー
出演:ロバート・デ・ニーロ、ザック・エフロン、ジュリアン・ハフ、オーブリー・プラザ、ダーモット・マローニー

2017年1月6日(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://dirtygrandpa.jp/

作品写真:(C)2016 DG LICENSING, LLC
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2016年12月18日

「永い言い訳」オダギリジョー×西川美和監督トーク「信頼を寄せている俳優」「嘘くさいですね」

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 全国公開中の「永い言い訳」の西川美和監督、監督の「ゆれる」(06)に主演したオダギリジョーがこのほど、東京都内でトークショーに参加した。

 「永い言い訳」について。西川監督は「4年かけてじっくり撮った。自信がある内容。公開されてから感想が広まって、上映館も増えて嬉しい」と喜びをにじませた。「信頼を寄せている俳優」と紹介されたオダギリは「嘘くさいですね」と苦笑い。「『永い言い訳』は2回みた。すごい。傑作だと思う」とべたぼめ。西川監督も「嘘くさいですね。今の流れだと」と返し、観客の笑いを誘った。

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 「永い言い訳」の気になるシーンに、本木雅弘のせりふ「そうでしょう」を挙げたオダギリ。「口ぐせかアドリブと思った。あの『そうでしょう』は本木さんにしか言えない」と絶賛。西川監督は「全部せりふです」と明かした。本木の大ファンというオダギリは「ファッションなど影響を受けている。本木さんのきちんとした部分は受け継がず、突飛なところだけを受け継いでしまった」と話した。

 また、本木の演じた幸夫について、オダギリは「俳優なら誰もがやりたい。俳優にとって何もかもが痛い。自分の中の一部を見せつけられている感じ。特に本木さんは内面にそういうものを色濃く求めているから、余計に役とリンクしてしまう」と分析。西川監督も「本木さんは最近、立派な人物を演じることが多いイメージがあった。人間の屈託みたいなものを出せる役なら、違う魅力が出せるのではないかな、と思った」と話した。また「本木さんはこの役は自分が演じて良かったのか、と撮影中もずっと問い続けていた」と明かした。

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 「ゆれる」公開から10年を迎えた今回のイベント。作品を久しぶりに見たというオダギリは「20代最後の作品だったので、むちゃむちゃ気合いを入れて臨んだ。色々なことをやって、自分なりに答えを出せたつもりでいたけど、今見ると(自分の芝居は)まあ、その程度かなと。撮り直したい」と発言。共演した香川照之について「今の自分が当時の香川さんと同じ年。やっぱりすごい」と話していた。

(文・写真 岩渕弘美)

「永い言い訳」(2016年、日本)

監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子

2016年10月14日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://nagai-iiwake.com/

作品写真:(c)2016「永い言い訳」制作委員会

タグ:イベント
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2016年12月15日

「フィッシュマンの涙」薬を飲んだら魚になった 平凡なフリーターを襲った悲喜劇

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 病院で寝ているだけで報酬30万ウォン(3万円弱)がもらえる――。おいしい条件につられて参加した製薬会社の臨床実験。ところが、薬の副作用で上半身が魚へ突然変異してしまう。「フィッシュマンの涙」は、泣くに泣けない悲劇に見舞われた若者パク・グをめぐる物語だ。

 人魚(マーメイド)とは逆に、上半身が魚。シュルレアリスムの画家ルネ・マグリットの作品「共同発明」に想を得たという造形は不気味ではあるが、ギョロッとした目と厚い唇に愛嬌がある。モンスターというより、着ぐるみの“ゆるキャラ”といった感じ。とはいえ、本人にとっては深刻な事態である。

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 なのに、父親もガールフレンドのジンもパクに同情するどころか、金もうけの手段としか考えようとしない。自宅にかくまってくれた新人記者サンウォンも、製薬会社相手に戦う人権派弁護士も、あくまで自分たちの仕事が第一。どこまで親身になってくれているのか分からない。世間もパクに同情する人々がいるかと思えば、排除しようとする者もいる。

 面白いのは、父親やジンをはじめ、魚人間のパクを目にする誰もが大して驚かないことだ。それどころか、父親は対面するや開口一番「勉強もしないで何してる!」と息子の魚顔にビンタを食らわす。内容はシリアスだが、こういうコミカルな演出が全編にあふれていて、笑いが途切れない。

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 平凡なフリーターのパク。無名大学卒のサンウォン。ネットの投稿マニアであるジン。いずれも、社会の片隅でひっそり生きてきた人々だ。だから、金や地位に目がくらむのも仕方ないのだろう。各キャラクターに納得できるバックグラウンドがあるので、ストーリー展開に無理がない。

 製薬会社を相手取った訴訟での敗訴。パクの魚化の進行。そんな中、サンウォンも、ジンも、そしてパク自身も、気持ちに変化が生じていく。そして、最終的にパクが下した決断とは。

 格差社会、拝金主義、メディアの暴力──。日本はもちろん、どの先進国にも共通する問題をえぐり出し、各国の映画祭をにぎわせた話題作。「オアシス」、「ポエトリー  アグネスの詩」の巨匠、イ・チャンドン監督が脚本に惚れ込み、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。

(文・沢宮亘理)

「フィッシュマンの涙」(2015年、韓国)

監督:クォン・オグァン
出演:イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ボヨン

2016年12月17日(土)、シネマート新宿、HTC渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://fishman-movie.jp/

作品写真:(C)2015 CJ E&M, WOO SANG FILM
posted by 映画の森 at 08:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする