2016年11月30日

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」ストリープ×グラント、歌と愛のコメディー・ドラマ

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 1940年代、米ニューヨーク。社交界に君臨するマダム・フローレンス(メリル・ストリープ)の愛と財産は、夫シンクレア(ヒュー・グラント)と音楽に捧げられていた。ソプラノ歌手が夢のフローレンスだったが、自分の歌の致命的な欠陥に気付いていなかった──。

 音楽の殿堂「カーネギーホール」で、音痴なのにリサイタルを開いた実在の富豪フローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868〜1944)と、夫シンクレア・ベイフィールドを描いたコメディー・ドラマ。監督は「クィーン」(06)、「あなたを抱きしめる日まで」(13)のスティーヴン・フリアーズだ。

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 映画界では今ちょっとした「マダム・フローレンス」ブームのようだ。昨年は彼女がモデルのフランス映画「偉大なるマルグリット」(15)が公開。今回は本人をストレートに描く「本命版」といえる。

 フローレンスはずばり「下手の横好き」。本人はひどい歌声に気付かず、真面目に練習に取り組み、歌に情熱を捧げる。はたから見れば滑稽としかいえない。夫のシンクレアといえば、ひたすら妻の夢のため奔走する。金をばらまいて人を買収し、音楽知らずのイエスマンを集めて裏工作に励む。ブラックな夫である。

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 いわば舞台劇的な演出のため、俳優の演技がものをいう。大女優ストリープはジャンルを問わず柔軟に演じ分けられる。彼女のキャリアでも珍しいコメディーで音痴役だ。実際には「マンマ・ミーア!」(08)でも証明された美声で、今回はわざわざ訓練して演じたそうだ。

 年下夫役のグラントが、実は裏の主役かもしれない。端正な外見を武器に満面の笑みをたたえ、献身的に妻を支える表の顔。夜は妻が寝たことを確認し、愛人が待つ別宅で過ごす。二面性を持つ腹黒いプレイボーイを楽しげに演じている。

 1940年代、第二次世界大戦中の米国。フローレンスの音痴な歌声は、ささくれだった米兵の心を癒やしたという。 ノスタルジックな時代背景に、ストリープとグラントの息の合った名演。ストレス多き現代人の心を癒やす、楽しいコメディー映画に仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」(2016年、英)

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーク、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ

2016年12月1日(木)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/florence/

作品写真:(C)2016 Pathe Productions Limited. All Rights Reserved
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2016年11月23日

「ブルーに生まれついて」人気ジャズ奏者チェット・ベイカーの光と影 イーサン・ホークが熱演

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 1950年代に一世を風靡(ふうび)した白人ジャズ・トランペッター、チェット・ベイカー。甘いルックス、美しい音色で多くのファンを魅了し、ジャズ史に残る名バラード「マイ・ファニー・バレンタイン」は今も代表曲として語り継がれる。

 「ブルーに生まれついて」は、ベイカーが60年代後半から70年代、麻薬におぼれてさまよった「暗黒期」を中心に描く。昨年の東京国際映画祭コンペティション部門出品作。監督、脚本はロバート・バドロー、主演はイーサン・ホーク。

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 冒頭は66年、イタリア。麻薬使用で投獄されたチェットは幻覚を見ている。場面は一転し、時はさかのぼって59年。画面はモノクロに変わり、米ジャズシーンで華々しく活躍するチェット。甘い声とルックスに女性ファンが熱狂する。そんな姿を冷ややかに見つめるのは、米ジャズ・トランペットの「帝王」マイルス・デイビス。アイドル気分のチェットに辛辣な評価を下す。

 また時は戻って66年。米国に帰ったチェットは、自伝映画で俳優デビューする計画だった。しかし撮影の途中、麻薬の密売人に暴行を受け、あごを砕かれ、前歯を全部失ってしまう。献身的に支えたのは、女優で恋人のジェーン(カルメン・イジョゴ)だった。

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 再起をかけて練習に励むも、昔のような演奏はできず、待っていたのは日陰者の人生。ピザ屋のライブ、その他大勢扱いのスタジオ・ミュージシャン、ガソリンスタンドの店員。どん底の日が続く中、旧知のプロデューサーの助けで、再び表舞台に立つ機会が与えられる。

 見どころはチェット演じるイーサン・ホークの演技に尽きる。立ち居振る舞いに違和感はない。演奏の音は吹き替えだが、歌はホークの声だ。チェットと異なる低い声質だが、雰囲気はうまくまねている。マイルス・デイビス、トランペット奏者ディジー・ガレスピーの存在感も際立つ。マイルスがフュージョンに傾倒した70年代をうまく表現し、黒サングラスに詰めえりスーツ姿。ジャズ・ファンはニヤリとするだろう。

 過去の栄光はモノクロ、苦難の現在はカラー。映像をうまく使い分け、人生の光と影を浮かび上がらせる。ジャズ、音楽ファン必見の作品に仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「ブルーに生まれついて」(2015年、米・加・英)

監督:ロバート・バドロー
出演:イーサン・ホーク、カルメン・イジョゴ、カラム・キース・レニー

2016年11月26日(土)、Bunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://borntobeblue.jp/

作品写真:(C)2015 BTB Blue Productions Ltd / BTBB Productions SPV Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

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2016年11月21日

「誰のせいでもない」事故を起こした罪悪感と贖罪 ヴェンダース、3Dで静かに味わい深く

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 カナダ・モントリオール郊外、冬の夕暮れ。田舎道を1台の車が走る。雪が降り、視界が悪い。突然、丘からソリが滑り落ちてくる。車はブレーキをきしませて止まる。静寂。車の前に座り込む幼い少年。幸いけがもないようだ。運転していたトマスは胸をなでおろし、少年を家まで送る。しかし、母ケイトは息子の姿を見て半狂乱になる──。

 一つの事故が、一人の男と三人の女の人生を変えていく。「誰のせいでもない」は、ノルウェーの作家ビョルン・オラフ・ヨハンセンの脚本を、「パリ、テキサス」(84)、「ベルリン・天使の詩」(87)のヴィム・ヴェンダース監督が映画化した。監督7年ぶりの劇映画だ。

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 雪道の交通事故から物語は幕を開ける。事故の加害者となった作家トマス(ジェームズ・フランコ)と、被害者の母ケイト(シャルロット・ゲンズブール)、トマスの恋人サラ(レイチェル・マクアダムス)、その後トマスのパートナーとなるアン(マリー=ジョゼ・クローズ)の数奇な人生がつづられる。

 事故を起こした事で罪悪感に駆られたトマスは酒におぼれ、病院に緊急搬送され、サラとの関係も悪化してしまう。しかし、事故による悲しみがトマスに新たな扉を開き、作家として成功を手にする。2年後、トマスは事故現場を訪れケイトと再会。加害者と被害者の二人は、同じ悲しみを背負い生きてきたことで共鳴し、悲しみを埋め合う関係を築く。

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 4年後、トマスは編集者アンとその娘ミナと新しい生活を始めようとしていた。さらに4年後、トマスはコンサートの席でサラと再会する。トマスは彼女を深く傷つけたことを思い出す。そして事故から11年。トマスに、事故当時は5歳で今は16歳に成長したクリストファーから手紙が届く。

 監督は主人公と三人の女性の心の揺れを静かに描き出す。事故による罪悪感による心の変化、人生への影響と贖罪。時間の飛躍と省略を使い、普遍的なテーマを11年間を通じて描きだした。心の深い奥を描くため、監督はドキュメンタリー映画「Pina ピナ・バウシュ踊り続けるいのち」(11)に続き、3D映像を採用している。

 重要な役目を果たすのはアレクサンドル・デスプラの音楽だ。弦楽を使って同じ和音のメジャーコードとマイナーコードを繰り返し、呼吸の様な効果を与えた。揺れ動く心、緊張感を生み出している。ヒッチコック作品で知られるバーナード・ハーマンが得意とする作曲法で、デスプラはあえて古典サスペンスのような方法を使ったのだろう。

 「誰のせいでもない」は、罪悪感がもたらす主人公の感情の変化を静かに見つめ、人と人のつながりを通し、その感情を克服して新たな道を歩むまでをじっくりと描き出した。ヴェンダース作品の中では地味だが、立体的な3D映像を含め、実に味わい深く仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「誰のせいでもない」(2015年、ドイツ・カナダ・フランス・スウェーデン・ノルウェー)

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブール、レイチェル・マクアダムス、マリ=ジョゼ・クローズ

2016年11月12日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.transformer.co.jp/m/darenai/

作品写真:(c)2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GÖTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

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2016年11月17日

「胸騒ぎのシチリア」スウィントン×ファインズ、往年のドロン主演名作リメイク

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 世界的に人気のロック歌手マリアン(ティルダ・スウィントン)は、痛めた声帯と心を癒やすため、年下の恋人ポール(マティス・スーナールツ)とイタリア・シチリアの島で優雅な時間を過ごしていた。そこへ元恋人で音楽プロデューサーのハリー(レイフ・ファインズ)が娘のペン(ダコタ・ジョンソン)を連れて押しかけてくる──。

 シチリアのパンテッレリーア島を舞台に、男女4人の入り組んだ欲望と愛憎を描いた「胸騒ぎのシチリア」。ジャック・ドレー監督、アラン・ドロン主演のフランス映画「太陽が知っている」(69)のリメイクだ。「ミラノ、愛に生きる」(09)のルカ・グァダニーノ監督が同作に続き、主演のスウィントンとタッグを組んだ。

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 マリアンの新旧恋人とその娘が、陽光降り注ぐ美しい島で一緒に過ごす。祭りのせいで泊まる場所がないハリー親子を、マリアンは友人に借りたプール付き別荘に泊めることに。実はマリアンにポールを紹介したのはハリー。寡黙なポールと対照的に、ハリーは陽気で社交的だ。マリアンの心は二人の間で再び揺れる。一方、ポールは美しいペンに心ひかれていく。ハリーはマリアンとの復縁を願っている。複雑に入り組む4人の嫉妬、欲望はやがて思わぬ事件を巻き起こす。

 声帯手術で話せない設定のスウィントンに対し、ハリーを演じたファインズが弾ける。寡黙でストイックな役が多いファインズだが、今回は陽気で厚かましいひげ面おやじ。過去に英人気バンド「ローリングストーンズ」をプロデュースしたというハリー。ストーンズの曲を熱唱し、全裸でプールを泳ぎ、立ち小便までする始末。無神経なハリーにポールは嫉妬する。

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 そんな陽気な舞台と裏腹に、後半は予期せぬ事件が発生。疑心暗鬼とシリアスな心理描写、サスペンスタッチで観客を惑わせる。ドロン主演のオリジナルは落ち着いた大人のトーンだったが、今回は変幻自在のファインズがけん引。主人公がロック歌手であることや、ストーンズの曲を使うことで現代的な味付けになった。エネルギッシュで緩急際立つ作品だ。

(文・藤枝正稔)

「胸騒ぎのシチリア」(2015年、イタリア・フランス)

監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ティルダ・スウィントン、ダコタ・ジョンソン、レイフ・ファインズ、マティアス・スーナールツ

2016年11月19日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://sicily-movie.com/

作品写真:(C)2015 FRENESY FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED

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2016年11月13日

「華麗なるリベンジ」ファン・ジョンミン×カン・ドンウォン 検事と詐欺師のバディ・ムービー

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 韓国の人気俳優ファン・ジョンミン、カン・ドンウォン共演の“バディ・ムービー”「華麗なるリベンジ」。無実の罪で収監された検事とイケメン詐欺師がコンビを組み、巨大な権力に立ち向かう。

 リゾート開発に反対する過激な環境保護団体が、警察と激しく衝突した。正義感が強く苦労人の検事ピョン・ジェウク(ファン・ジョンミン)は、背後に開発側の関与を疑う。一方、政界進出を狙う次長検事のジョン・ギル(イ・ソンミン)にとってジェウクは邪魔だった。捜査から手を引くよう命じるが、ジェウクは無視して取り調べを強行する。ところが容疑者が取調室で死亡。ジェウクは疑われて15年の実刑判決を受け、収監される。

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 刑務所生活も5年が過ぎた。受刑者から一目置かれる存在となっていたジェウクの前に、巧みな話術とルックスで人をだます詐欺師ハン・チウォン(カン・ドンウォン)が現れた。ふとした会話からチウォンが5年前の事件にかかわっていたことを知るジェウク。真相を知り自らの汚名をすすぐため、チウォンに取引を持ちかける。「出所を助けるから自分の計画を手伝ってくれないか」

 チウォンはジェウクの提案に同意。しかし、二人は性格も行動も正反対。あくせく働くのが嫌いなチウォンだったが、ジェウクにとっては命綱。いやいやながらもチウォンは手足となって動き、詐欺師の才能を発揮。5年前の事件の核心に迫っていく──。

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 ファン・ジョンミンは静の演技。塀の中で腰を据え、内面に炎をたぎらせ、少しずつ真実に近付いていく。閉ざされた空間で重厚感を見せる。対するカン・ドンウォンは動の演技。口八丁手八丁、表情豊かに軽妙に詐欺師になりきる。時間とともに頼りになる相棒へ変わっていく。

 対照的な二人の男が、手を組んで巨悪と戦う。ありがちなストーリーだが、主演二人のメリハリある演技で見ごたえある娯楽作品となった。

(文・岩渕弘美)

「華麗なるリベンジ」(2015年、韓国)

監督:イ・イルヒョン
出演:ファン・ジョンミン、カン・ドンウォン、イ・ソンミン、パク・ソンウン、シン・ソユル

2016年11月12日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kareinaru-revenge.com/

作品写真:(C)2016 SHOWBOX, MOONLIGHT FILM AND SANAI PICTURES CO., LTD ALL RIGHTS RESERVED.

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