2016年09月15日

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」公開記念シンポ「女性の生き方、模範示した」

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 往年の名女優イングリッド・バーグマン生誕100年を祝し、2015年にカンヌ国際映画祭でプレミア上映された「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」。日本公開記念シンポジウム「女優イングリッド・バーグマンの生涯からみる男女役割の変化」がこのほど東京都内で開かれた。基調講演を行ったジャーナリストのウルリカ・クヌートソン氏は「バーグマンはフェミニストの象徴的存在だった」と語った。

 米アカデミー賞主演女優賞を3度も受賞した名女優であるとともに、“恋多き女”として奔放な人生を送ったバーグマン。「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」は波乱万丈の生涯を、バーグマン自身が撮影したホームムービーや日記、手紙、家族や関係者へのインタビューなどを通して浮き彫りにしたドキュメンタリー映画だ。

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 クヌートソン氏は、同作の内容を踏まえた上で、女優として、また女性としてバーグマンが歩んだ道を振り返り、彼女が映画界や社会に与えた影響について話した。

 母国スウェーデンで女優デビューしたバーグマン。「女の顔」(38)では顔にやけどを負った女性、ハリウッドに招かれて撮った「ジキル博士とハイド氏」(41)では酒場の女と、イメージにそぐわない役に敢えて挑戦し、役柄の幅を広げていった。「誰が為に鐘は鳴る」(43)では、自慢の長い髪を切り、戦うヒロインを熱演。「この作品を認めなかった原作者のヘミングウェイも、バーグマンの演技には絶賛を惜しみませんでした」

 その後、「白い恐怖」(45)や「汚名」(46)などのヒッチコック作品で全盛を極めるが、イタリア映画「ストロンボリ 神の土地」(49)への出演をきっかけに、監督のロベルト・ロッセリーニと恋に落ち、妊娠。歯科医の夫と離婚し、ロッセリーニと再婚したバーグマンは、非難轟々の末にハリウッドから追放される。

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 しかし、1956年にハリウッドに復帰するや、「追想」(56)で2度目のオスカーを獲得。たちまちトップスターに返り咲く。その後も順調にキャリアを重ね、晩年は母国の巨匠イングマル・ベルイマン監督の「秋のソナタ」(78)で大女優の貫禄と輝きを見せた。

 「教師、看護師、ピアニスト、アーティスト、宣教師……。50年以上にわたるキャリアを通して、バーグマンは多様なキャラクターを演じ、女性の生き方の模範を示しました。さまざまな意味でフェミニストの象徴的存在でした」

 男性の人生に付き従うのではなく、自らの意思で人生を切り開く――。スクリーンの中でも、実人生においても、バーグマンは女性の模範であり、憧れであり続けた。

 そんなバーグマンの魅力を余すところなくとらえたドキュメンタリー「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」。女性の自立と活躍が強く求められる今こそ見ておきたい、先駆的女性の貴重な記録だ。

(文・沢宮亘理)

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」(2015年、スウェーデン)

監督:スティーグ・ビョークマン
出演:イザベラ・ロッセリーニ、イングリッド・ロッセリーニ、ロベルト・ロッセリーニ、ピア・リンドストローム、リヴ・ウルマン、シガニー・ウィーバー

渋谷Bunkamuraル・シネマほかで公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://ingridbergman.jp/


作品写真:(c)Mantaray Film AB. All rights reserved. Photo: The Harry Ransom Center, Austin
タグ:イベント
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2016年09月08日

「だれかの木琴」ストーカーと化す平凡な主婦 常盤貴子、屈折心理を自然体で

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 平凡な主婦の小夜子(常盤貴子)は、警備機器会社勤務の夫・光太郎(勝村政信)と、中学3年生の娘・かんなの3人家族だ。念願の一軒家に引っ越しを済ませ、近所の美容院で若い美容師の山田海斗(池松壮亮)に髪を切ってもらう。その後届いたお礼のメールに返信した時、小夜子の中で何かがざわめく──。

 井上荒野の原作小説を「サード」(78)、「もう頬づえはつかない」(79)、「絵の中のぼくの村」(96)の東陽一が監督、脚本、編集した。

 海斗が送ったのは形式的な営業メールだったが、小夜子は丁寧に返信した。ささいなやり取りのはずが、海斗がさらに愛用のハサミの写真を送信。その瞬間、小夜子の心のすき間に海斗が入り込んだ。届いたばかりのベッドの写真を送る小夜子。困惑する海斗に、恋人の唯(佐津川愛美)は「誘っているんだよ」と眉をひそめる。

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 返信しないまま2週間が過ぎた。小夜子は再び美容院を訪れ、海斗を指名してカットを頼む。なにげない世間話の中から小夜子は海斗のアパートの場所を探り出し、留守中に訪ね、玄関にイチゴとメッセージを書いたメモを残す。自分の口の軽さを後悔する海斗。心にはモヤモヤが広がり始めた。

 1通のメールから始まる「だれかの木琴」。海斗に執着する小夜子を作ったのは、夫の光太郎だろう。自分のペースで妻を抱き、自社の保安システムで守られた家に妻を放置し、無関心を貫く。逆に会社では若い社員に色目を使い、町で知り合った女を抱き、妻の異変に気付かない。小夜子の行動がエスカレートし、唯が自宅に怒鳴り込んで初めて妻に目を向ける始末だ。家を外から守ることだけに熱心な夫は、中で崩壊する妻に気付かない。皮肉な話だ。

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 東監督は1982年、「ザ・レイプ」で性的暴行の被害者を正面から描いた。今回はストーカーと化す女性が主人公だ。時代の空気を敏感にすくい取る視点は健在だ。かつてトレンディー・ドラマで一世を風靡した常盤が、自覚のないままストーカーに変わる主婦を自然に演じている。池松も翻弄される若者を等身大で好演。孤独のあまり屈折する女性の心理を、監督は巧みに描いている。

(文・藤枝正稔)

「だれかの木琴」(2016年、日本)

監督:東陽一
出演:常盤貴子、池松壮亮、佐津川愛美、勝村政信、山田真歩

2016年9月10日(土)、有楽町スバル座、シネマート新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://darekanomokkin.com/

作品写真:(C)2016「だれかの木琴」製作委員会

タグ:レビュー
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2016年09月02日

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」クロード・ルルーシュ監督と音楽家フランシス・レイ、「男と女」の最終章

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 映画音楽家アントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は、自由に人生を謳歌して生きてきた。まるで自分が書いた音楽のように。ボリウッド版「ロミオとジュリエット」の製作のため訪れたインドで、フランス大使夫人のアントワーヌ(エルザ・シルベルスタイン)と出会う──。

 名作「男と女」(66)から半世紀。クロード・ルルーシュ監督と作曲家フランシス・レイが再び組んだ作品だ。原題は「UN+UNE」。日本語に訳すと「男プラス女」。「男と女」の流れを組む恋愛模様だ。アントワーヌは「男と女」の主人公の息子と同じ名前だが続編ではない。

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 舞台はインド。宝石店強盗の男が逃亡中に女を車ではねる。大けがを負った女を見捨てられず、病院へ担ぎ込んだところ、警察に逮捕されてしまう。加害者と被害者の二人だが恋に落ちて結ばれる。このエピソードがインド版「ロミオとジュリエット」だと評判になり、映画化されることになる。音楽担当として白羽の矢が立ったのが、アントワーヌだった。

 レコーディングのため訪れたインドの晩餐会で、アントワーヌはアンナと出会って意気投合。フランスに恋人のアリス(アリス・ボル)を残したアントワーヌと、フランス大使の夫サミュエル(クリストファー・ランバート)がいるアンナ。パートナーがいる身ながらひかれ合う。子供ができないアンナは聖者に合うためインド南部へ。頭痛に悩まされていたアントワーヌも、休暇を兼ねてアンナの旅に同行する。

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 さまざまな男女の愛を描いてきたルルーシュ監督。「男と女」はスタイリッシュでみずみずしい映像で、世界の観客を魅了した。20年後の続編「男と女U」(86)は行き詰まったか、製作のジレンマが作品に投影され、中途半端になってしまった。

 時はさらに流れ、盟友レイと再び組んだ今回。どこか吹っ切れたのか、監督の心情が表れたのか。異国インドを達観したように見つめながら、中年期の恋愛をアグレッシブに描き出した。聖者のくだりはやや宗教色を感じるが、人生の岐路に立つ二人にとって、背中を押す大事な役目を担っている。レイの甘美なメロディーに導かれ、たどり着く愛の形。運命のいたずらともいえる心地よい幕引きだ。ルルーシュとレイによる「男と女」、最終章にふさわしい作品といえよう。

(文・藤枝正稔)

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」(2015年、フランス)

監督:クロード・ルルーシュ
出演:ジャン・デュジャルダン、エルザ・ジルベルスタイン、クリストファー・ランバートサミュエル
アリス・ポル、マーター・アムリターナンダマイー

2016年9月3日(土)、Bunkamura ル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://anna-movie.jp/

作品写真:(C)2015 Les Films 13 - Davis Films - JD Prod - France 2 Cinema

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2016年09月01日

「KARATE KILL カラテ・キル」腕一本でカルトと戦う男 空手B級アクション、現代に蘇る

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 寡黙でストイックなケンジ(ハヤテ)は、女優を夢見て米国留学した妹マユミ(紗倉まな)が音信不通になり、不安を募らせ渡米する。マユミはそのころ、テキサス州の辺境で謎の組織「キャピタル・メサイア」にとらわれていた──。

 「KARATE KILL カラテ・キル」は、海外市場を照準にアクション映画を製作するマメゾウピクチャーズの長編第2弾。主演は同社長編1作目でデビューした空手師範で俳優のハヤテ。監督、脚本はロス在住の光武蔵人だ。

 物語はいたってシンプル。幼いころに両親を亡くした兄が、行方不明の妹を探して単身米国へ乗り込み、カルト集団に殴り込みをかける。大部分を米国でロケし、日本での撮影は1日のみ。83分とコンパクトにまとめている。

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 始まりは日本だ。自分の居場所を見つけられないケンジは、妹マユミが働いていた怪しげなクラブへ。用心棒とヤクザをバッタバッタとなぎ倒し、親玉から妹の行方を聞き出す。マユミはクラブで勤務中、カルト集団「キャピタル・メサイア」に拉致され、エルパソの巣窟に連れ去られた。集団は高額な会員制サイトを運営し、マユミは拷問や殺人のいけにえとしてとらわれていた。

 ハヤテの空手アクションを大々的に取り上げた「KARATE KILL カラテ・キル」。クエンティン・タランティーノ、ロバート・ロドリゲスが傾倒する1970年代B級映画、いわゆる「グラインドハウス」の流れを確信的に現代に蘇らせた。銃社会米国で素手だけで戦う空手家は、神秘的ですらある。刺客の銃弾や日本刀を素早くかわす訓練は、スポ根ドラマさながらだ。ケンジは空手技一本でカルト集団を追い詰めていく。

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 70年代に東映が製作した千葉真一、志穂美悦子主演の空手映画シリーズの遺伝子が受け継がれている。空手、パルクール、スプラッター、エロス。B級映画ファンが喜ぶ要素を満載し、荒唐無稽を貫く。空手アクションとB級映画ファンは必見である。

(文・藤枝正稔)

「KARATE KILL カラテ・キル」(2016年、日本)

監督:光武蔵人
出演:ハヤテ、紗倉まな、亜紗美、カーク・ガイガー、カタリナ・リー・ウォーターズ

2016年9月3日(土)、シネ・リーブル池袋ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://karate-kill.com/

作品写真:(C)2016 TORIN, INC.

タグ:レビュー
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