2016年09月30日

「永い言い訳」完成披露舞台あいさつ 西川美和監督最新作 本木雅弘「立場で受け止め方が異なる深い映画。身につまされて」

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 西川美和監督の新作映画「永い言い訳」(10月14日公開)の完成披露試写会がこのほど東京都内であり、主演の本木雅弘、西川監督らが舞台あいさつした。

 「ゆれる」、「ディア・ドクター」の西川監督が自身の小説を映画化。突然の事故で妻を失ったが悲しめない男が、同じ事故で母を亡くした子供たちと出会い、自分を見つめ直す姿を描く。

 西川監督は「発案は(東日本大)震災の年の暮れ頃。多くの人が突然の別れをした中で、誰にも打ち明けられない後味の悪い別れ、思い残しをしている人もいるのではないか、と。(彼らが)その後も続く長く険しい道をどう立て直していくか。体験取材をしながら小説を書き、ようやく完成した」と語った。

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 「おくりびと」以来7年ぶりの映画主演となる本木は、主人公の人気作家役。役名の「衣笠幸夫」にとても愛着があるという。幸夫との共通点を「自意識のかたまりみたいなところ。正直だけれど屈折しているところがそっくり」と即答。西川監督について「いたぶられるような演出。知性的な言葉を使いつつ低い声で、静かにサディスティックに攻められた」と話し、笑いを誘った。

 西川監督も「(本木と主人公が)ここまで似ていると思わなかった。人間の内面の弱さ、愚かさをあらわにする役。演じるには難しさもあったと思う。珍しく台本を読んだ本木さんの奥様が『あなたそっくり』と言ったと聞き、大丈夫だと思った」と話した。さらに「真剣に一つ一つ悩みながら取り組んでくれた。長い時間一人で作品を書いてきた自分にとって、一緒に船をこいでくれる間柄になってくれた。感謝している」と語った。

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 二人の子供の父親を演じた竹原ピストルは「最初はえらいことになった、と思った。できるか不安はあったが、ベストは尽くせた。子役の玉季ちゃんが上手なうえ、台本にないセリフまでフリースタイルで炸裂させる。僕に即興性がなくてタジタジしてしまった」と話した。子役の玉季は西川監督に向かって「西川組が大好き。また使ってください」と堂々とアピール。大物ぶりを発揮していた。

 最後に本木は「西川監督はシビアな観察眼をもつ男っぽい方ですが、この映画からは母性や優しさを感じた。いろいろな立場で受け止め方の異なる深い映画。ぜひ身につまされてください」とあいさつ。西川監督も「5年かけてじっくりはぐくんだ。生々しく人の血の通った作品ができた。自分の作品で唯一、ほのかな幸福感とともに終わった。家族や大事な人に勧めてほしい」と締めくくった。

(文・写真 岩渕弘美)

「永い言い訳」(2016年、日本)

監督:西川美和
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子

2016年10月14日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

作品写真:(c)2016「永い言い訳」制作委員会
タグ:イベント
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2016年09月29日

「イエスタデイ」ビートルズに憧れて ノルウェーの少年たち、ひと夏の経験と成長

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 ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ペースメイカーズ、キンクス、クリーム……。ロック好きの高校生4人が、それぞれ知っているバンドの名を口にしながら、次々とプールに飛び込んでいく。1967年夏、ノルウェーのオスロ。若々しいエネルギーがほとばしり、ロックへの愛がはじける。印象的なオープニング・シーンである。 

 4人はビートルズに心酔し、ビートルズと同じ楽器編成のバンドを組んでいる。ベースのキム、リードギターのセブ、ドラムスのオラ、リズムギターのグンナー。全員がビートルズのメンバーを意識し、「いつか彼らのように有名になりたい」と夢見ている。

 「イエスタデイ」は、そんな4人の高校生たちが、バンド活動に励みつつ、各々が刺激的なひと夏を過ごし、大人への一歩を踏み出す姿を描いた青春映画だ。

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 船乗りの父親からビートルズの最新LPを買ってもらえる特権的立場を享受する一方、両親の離婚問題に心を悩ますセブ。子供っぽくドラムも下手くそだが、知らないうちにちゃっかりガールフレンドを作っているオラ。グループでは一番大人びており、アルバイトを通して親しくなった人妻と危険な関係に陥ってしまうグンナー。

 最もエキサイティングな夏を経験したのはキムだ。映画館で隣り合わせた見知らぬ少女に手を握られ、さらには唇まで奪われるという、夢のような出来事に遭遇したのだ。しかも、少女は呆然と立ち尽くすキムを置き去りにしたまま、何も言わずに姿を消してしまう。その日から、キムは少女のことが頭から離れなくなる。

 さらにもう一人、別の少女が現れる。セシリアという名の転校生。ツンとすましたブルジョアの子だが、校外学習で彼女のピンチを救ったことで、キムに急接近してくる。“幻の少女”を忘れられぬまま、セシリアとデートするようになるキム。しかし、やがてセシリアに秘密がバレてしまい――。

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 大人から見れば微笑ましい恋のエピソードかも。だが、思春期真っ盛りの高校生にとっては、人生の一大事。少女の気まぐれやジェラシーに翻弄され、悩み、苦しみながら、必死に愛をつかみ取ろうともがく姿が、初々しく、愛おしい。そして、そんなキムを精神的に支え、励ますのが、ビートルズの音楽であり、バンドの仲間たち。オーソドックスな筋立ても潔く、清々しい。

 ベトナム反戦運動など60年代の雰囲気もしっかり描き込まれ、ビートルズを知らない世代でも、あの時代特有の熱気と興奮を味わえる作品だ。

(文・沢宮亘理)

「イエスタデイ」(2014年、ノルウェー)

監督:ペーテル・フリント
出演:ルイス・ウィリアムズ、ホーヴァール・ジャクウィッツ、オレ・ニコライ・ヨルゲンセン、ハルヴォー・シュルツ、スサン・ブーシェ、エッマ・ウェーゲ

2016年10月1日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://yesterday-movie.com/

作品写真:(c)2014 Storm Rosenberg. All rights reserved. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan Distributed by MAXAM INC. 
タグ:レビュー
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2016年09月21日

「ある天文学者の恋文」オルガ・キュリレンコに聞く トルナトーレ監督最新作「真実の愛は永遠と信じている」

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 名作「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督最新作「ある天文学者の恋文」(2016年9月22日公開)。初老の天文学者と若き教え子の恋愛と死別、その後に起きる謎をミステリータッチで描く。前作「鑑定士と顔のない依頼人」に続き、いくつもの鍵を散りばめて観客を迷宮にいざない、時を超えた愛について問いかける人間ドラマだ。主演のオルガ・キュリレンコが書面インタビューに答え「真実の愛は永遠と信じている」と語った。

 著名な天文学者のエド(ジェレミー・アイアンズ)は、美しく聡明な教え子のエイミー(オルガ・キュリレンコ)との恋愛を満喫していた。ある時、授業中のエイミーの手元に、出張中のエドから「もうすぐ会える」とメールが届く。それと同時に、目の前の教壇に立つ教授が学生たちに「エドは数日前に亡くなった」と告げる。

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 突然の出来事に取り乱すエイミー。時を開けずエドからのメールや手紙、贈り物が次々と届く。エドが生前に手配していたのか。疑問を抱いたエイミーは、エドが暮らしていた英エジンバラへ向かう──。

 エイミー役のキュリレンコは、相手役のアイアンズが目の前にいない状態で演技を続ける。相手役不在の一人芝居に近い。さらに天体物理学の学生役だ。「難しかったけれど、面白かった」と振り返った。

 「恋愛が中心の作品ですが、同時に天体物理学にも焦点をあてなければならず、たくさん準備をしました。天体物理学の学生で、私のまったく知らないことを話す役。インターネットで論文、本の引用など多くの資料を読み、自分が話すことを理解しようとしました」

 トルナトーレ監督作品への出演は初めて。監督を「とても直感の強い人」とみる。

 「すべての監督には違いがあります。トルナトーレ監督についてとても興味深かったのは、脚本やセリフにとても忠実なことでした。脚本に描かれているすべての言葉がとても重要。その方向性に従うのが大事でした。監督はとても直感が強く、同時に人間の心理を完ぺきに理解していました」

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 愛する人からメッセージが届き続けるのに、本人は目の前にいない。失われたものへの愛情は成立するのか。薄れゆく記憶とどう向き合えばいいか。キュリレンコは「監督は二つとない物語を考え出した」と言う。

 「独特で、そして最も重要なことですがよく練られています。脚本を読んでとても驚きました。話の前提は気が利いていて観る人を引き付ける。主題は興味深い。死の数百万年後、私たちに見える星の一生が対応している点が、とても気に入りました。私は真実の愛は永遠だと強く信じています」

(文・遠海安)

「ある天文学者の恋文」(2016年、イタリア)

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェレミー・アイアンズ、オルガ・キュリレンコ、シャウナ・マクドナルド、パオロ・カラブレージ、アンナ・サバ

2016年9月22日(木・祝)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/tenmongakusha/

作品写真:(C)COPYRIGHT 2015 - PACO CINEMATOGRAFICA S.r.L.

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2016年09月19日

「歌声にのった少年」ガザの希望、姉への思い胸に 実在歌手の半生

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 パレスチナのガザ地区。1948年のイスラエル建国以来、数多の紛争を経験してきた町は、2007年に封鎖され、人々の自由はさらに制限された。そんなガザを歌声で勇気づけた青年歌手の半生を、米アカデミー賞外国語映画賞候補作「パラダイス・ナウ」(05)、「オマールの壁」(13)のハニ・アブ・アサド監督が映画化した。

 05年、ガザ。少年ムハンマド・アッサーフ(カイス・アタッラー)は姉のヌール(ヒバ・アタッラー)と友人の4人でバンドを組んでいる。楽しく歌えれば満足のムハンマド。一方、ヌールはカイロのオペラハウスで歌うことを夢見て、魚売りや結婚式での演奏で資金を集めていた。ところが、中古の楽器を手にして夢に一歩近づいた矢先、ヌールは腎不全で倒れてしまう。ムハンマドは手術費を工面しようと奔走するも、ヌールは力尽きた。残されたムハンマドの胸には、姉の言葉と夢が秘められていた。

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 12年、イスラエルの封鎖によってガザは激変していた。成長したムハンマド(タウフィーク・バルホーム)は亡き姉の夢をかなえるため、スカイプを通じてオーディションを受けるも失敗。友人の言葉に背中を押され、検問所を突破してカイロを目指す――。

 作品のモデルとなったのは、13年に人気オーディション番組「アラブ・アイドル」で優勝したムハンマド・アッサーフ。二人の俳優が二つの時代を映すように演じる。少年期の05年と青年期の12年で、ガザはまったく別の町のように変わっている。封鎖を受けてがれきの山が目立ち、ガザで夢を追うことの難しさを見せつけられる。

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 しかし、ガザの表情は一つではない。メディアで目にする町とは異なる映像に出合える。過酷な環境にも負けず、生活する人々の姿がある。白熱するストリート・サッカー。にぎやかな結婚式。テレビを囲む家族。

 オーディション番組に登場するムハンマドのプレッシャーははかり知れない。寄せられた「ガザの希望」という期待は重い。亡き姉との約束を抱き、重圧に耐えながら響かせる力強い歌声に胸を打たれる。

(文・魚躬圭裕)

「歌声にのった少年」(2015年、パレスチナ)

監督:ハニ・アブ・アサド
出演:タウフィーク・バルホーム、カイス・アタッラー、ヒバ・アタッラー、ディーマ・アワウダ、アハマド・ロッホ

2016年9月24日(土)、新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://utagoe-shonen.com/

作品写真:(C)2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC /KeyFilm/September Film

タグ:レビュー
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2016年09月17日

「オーバー・フェンス」ひかれ合う不器用で孤独な男女 佐藤泰志原作“函館3部作”

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 熊切和嘉監督「海炭市叙景」(10)、呉美保監督「そこのみにて光輝く」(14)に続き、新進気鋭の監督が作家・佐藤泰志の小説を映画化する函館3部作。最終章の「オーバー・フェンス」は、「マイ・バックページ」(11)の山下敦弘がメガホンを取った。

 家庭を省みない白岩(オダギリジョー)は妻に離婚され、故郷の函館で職場訓練校に通っている。訓練校では年も性格も違う男たちが大工を目指している。皆と深くかかわらず、微妙な距離を保つ白岩。帰路に弁当とビールを買っていると、路上で男ともめている女(蒼井優)に気付く。女は男に向かい、鳥の求愛ダンスをまねて踊っていた。白岩は一瞬女と目が合うが、気まずさにその場を自転車で去る。

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 白岩はある日、訓練校の仲間・代島(松田翔太)に誘われ、キャバクラへ飲みに行く。店内にひときわ目立つホステスがいた。求愛ダンスをしていた女、聡(さとし)だった。代島は聡を「すぐやれる女」と言い、自分も関係を持ったことを匂わせる。白岩は聡に自分とどこか通じるものを感じていた──。

 不器用で孤独な男女を描いた「オーバー・フェンス」。社会の片隅でもがく若者を描いた「そこのみにて光輝く」に方向性は似ている。白岩は元妻から絶縁状を突き付けられ、子供にも会えない。聡は男に利用されて自己嫌悪しながら、喜怒哀楽をはっきり表に出す。対照的な二人はひかれ合うが、あることがきっかけで聡の感情が爆発する。

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 山下監督は社会からドロップアウトした若者を描くことに長けている。「苦役列車」(12)、「もらとりあむタマ子」(13)と、世の中に適応できない男女に時に厳しく、時に優しい視線を送ってきた。

 離婚して心を閉ざす白岩に、聡は正面からぶつかり、懐に飛び込もうとする。支離滅裂な聡の行動に、白岩の心は徐々に解けていく。どこか刑務所を思わせるように、閉鎖的で刹那的な訓練校。男たちがグラウンドでソフトボールをしている。白球は弧を描き、青空へ。壁を越えて次のステップを踏める予感。白岩と聡の「その後」を感じさせ、心地良い余韻を残す作品となった。

(文・藤枝正稔)

「オーバー・フェンス」(2016年、日本)

監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介

2016年9月17日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://overfence-movie.jp/

作品写真:(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 22:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする