2016年08月06日

「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」登山家オム・ホンギル氏に聞く「自然に入る時は『愛する気持ち』が重要」

オム・ホンギル氏.jpg

 ヒマラヤ8000メートル級14座登頂に成功した韓国の登山家、オム・ホンギル氏と仲間の友情を描いた「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」が公開されている。モデルとなったオム氏は韓国を代表する登山家の一人。映画はエベレスト頂上付近で遭難死した後輩のため、危険を顧みず遺体回収に向かった実際のエピソードを描く。オム氏は豊富な登山経験を振り返り「自然の中に入る時は『愛する気持ち』が重要」と語った。

 2004年。引退したオム・ホンギル(ファン・ジョンミン)のもとに、後輩の登山家パク・ムテク(チョンウ)遭難の知らせが入る。オム氏はエベレスト8750メートルに残された遺体を家族のもとに帰すため、後輩たちとチームを結成。翌05年、決死の覚悟で再びピッケルを握る。

himaraya_main.jpg

 作品のモデルとなったオム氏は、アジアで初めてヒマラヤ8000メートル級14座の登頂に成功した。後輩のパク氏とは20代で出会い、カンチェジュンガ、K2、シシャパンマ、エベレストの8000メートル級4座をともに登った仲だった。映画では二人の出会い、輝かしい遠征の記録、別れと「再会」までを描いている。オム氏は遺体回収に向かった11年前を振り返る。

 「完成した作品を観た後、胸がつまり息苦しくなりました。リアルにあの時の状況がよみがえり、悲しみがこみ上げて。映画化にあたっては『私の志が伝わるよう表現して』と求めました。(パク氏らの)遺族に迷惑をかけたり、傷つけないようにしてほしいと」

himaraya_sub2.jpg

 「後輩の遺体を回収に行く」と告げた時、周囲の反応は厳しいものだった。オム氏は孤軍奮闘する。すでに引退した仲間たちに声をかけ、資金を募る。やがて熱い思いに応え、かつての山仲間たちが集まってきた。再び訓練を経ての遠征は、記録も名誉も求めず、ただ友情に支えられていた。

 「人々には君のもどかしさ、つらさは100%理解する。だがどうみても不可能な計画だ、と言われました。行けばまた遭難や大事故につながる可能性がある。否定的な意見がほとんどでした」

 女性で世界初のエベレスト登頂に成功した田部井淳子氏は、オム氏の行動に「多くの苦悩、葛藤、逡巡に見舞われただろう。険しい旅路を支えたのは、恵まれた体力、技術、運……一番は『どうしても回収したい』という強い思いに、山が『来い』と応えてくれたからではないだろうか」と言葉を寄せている。

himaraya_sub1.jpg

 数々の死線を乗り越えてきたオム氏自身、山へ向かう際は「いつも恐怖を感じる」という。遠征地へ向かう飛行機が離陸する際、「もう一度韓国に戻ってこられるだろうか」と感じてきた。一線を退いた今は、穏やかな気持ちで楽しんで山に登れるようになった。

 「自然に入る時は『愛する気持ち』が重要です。謙虚な気持ちで山に向かえば、自分が癒され、他者と心を通わせることもできる。嫌だという気持ち、拒否する心は破壊につながります。登る行為が自分にとって害になり、事故につながるのです」

 オム氏は50代後半を迎え、若者たちへの登山指導、ヒマラヤのシェルパの家族の支援活動に力を入れている。貧しさから教育を受けられない子供たちのために学校や奨学金を作った。

 「人間関係が希薄になり、情や命の尊厳が軽視される時代。命よりも重いものがあることを、作品を観た人に伝わればうれしいです」

(聞き手・写真 遠海安)

「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」(2015年、韓国)

監督:イ・ソクフン
出演:ファン・ジョンミン、チョンウ、チョ・ソンハ、キム・イングォン、ラ・ミラン

2016年7月30日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://himalayas-movie.jp/

作品写真:(C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

posted by 映画の森 at 11:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする