2016年08月18日

「ソング・オブ・ラホール」パキスタン伝統音楽と米ビッグバンド・ジャズ、海を越えて奇跡の共演

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 パキスタン北部の都市ラホール。イスラム原理主義者に音楽は禁じられ、伝統音楽家たちは転職を余儀なくされていた。消えゆく文化の先行きに懸念を抱いた彼らは再起を誓い、畑違いのジャズ演奏に一歩を踏み出す──。

 パキスタンの伝統音楽とウィントン・マルサリス率いるビッグバンド・ジャズの共演を追った音楽ドキュメンタリー「ソング・オブ・ラホール」。監督は米アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を2度獲得したパキスタン出身の女性監督シャルミーン・ウベート=チナーイ、米出身アンディ・ショーケン。

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 タリバンの禁止令で演奏できなくなったラホールの音楽家たち。彼らのに英国で成功した地元生まれの実業家、イッザド・マジードが現れ、私財を投じてスタジオを建設。音楽家たちを集めて「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」を結成する。古典楽器で奏でられるジャズはたちまち注目を集め、ネットの動画サイトで高アクセスを記録。英BBC放送にも取り上げられる。

 評判は海を越えて響き渡り、米ジャズ・トランペッターのウィントン・マルサリスの目に留まる。マルサリスは自ら率いるビッグバンドとの共演を計画。ラホールから音楽家たちを招き、ニューヨークでのコンサートを開催する。

 ジャズのスタンダード・ナンバーが、ラホールの音楽家の手で新たによみがえる。ところが異国の環境に萎縮したメンバーは、思うような演奏ができない。マルサリスに受けた厳しいダメ出しを糧に、猛特訓するメンバーたち。緊張に包まれ、ついに本公演の日を迎える。

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 パキスタンの伝統音楽が持つ精神と、米国で生まれ育ったジャズの出合い。ぶつかることで生じる化学反応が素晴らしい。言葉は通じなくてもメロディーとリズムで心が通う。ミュージシャンたちの静かな感動が伝わってくる。パキスタン伝統音楽の現状を知る上でも貴重な作品。音楽好き、ジャズ・ファンも必見のドキュメンタリーだ。

(文・藤枝正稔)

「ソング・オブ・ラホール」(2015年、米国)

監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
出演:ニジャート・アリー、バーキル・アッバース、サリーム・ハーン、アサド・アリー、ラフィーク・アフマド

2016年8月13日(土)、渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

作品写真:(C)2015 Ravi Films, LLC

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2016年08月10日

「栄光のランナー 1936ベルリン」激動の時代、差別と戦った伝説の男

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 1936年、ナチス政権下のドイツで行われたベルリン五輪。「栄光のランナー 1936ベルリン」は、陸上競技で史上初の4冠を達成した名選手、ジェシー・オーエンスの半生を描く。黒人選手として人種差別、政治的思惑と戦った伝説のランナーを、「グローリー 明日への行進」のステファン・ジェイムスが演じている。

 貧しい家に生まれたオーエンス(ジェイムス)は、中学、高校と数々の記録を樹立。オハイオ州立大学へ進み、コーチのラリー・スナイダー(ジェイソン・サダイキス)と出会って鍛えられる。35年、大学陸上競技大会「ビッグテン選手権」で、けがを負いつつ世界新記録を樹立。ベルリン五輪の有力候補になった。

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 一方、米国五輪委員会は当時、ナチスの人種差別政策に揺れていた。五輪参加を訴えるアベリー・ブランデージ(ジェレミー・アイアンズ)と、ボイコット派のエレミア・マホニー(ウィリアム・ハート)が激しく議論する。ナチスの宣伝大臣ゲッペルス(バーナビー・メッチェラート)が裏で手を回し、委員会投票では参加派が僅差で勝利。米国の五輪参加が決まった。現実味が増したオーエンスの五輪出場だったが、さらなる壁が待ち受けていた──。

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 ベルリン五輪はナチスにとって「アーリア人の優位性」を証明し、「ユダヤ人迫害」を正当化する機会に過ぎなかった。一方で米国内では五輪ボイコットを求める声が拡大。差別を許さず、友情と連帯、フェアプレー精神に基づくオリンピック精神が叫ばれる。黒人奴隷の子孫であるオーエンスにとって、激動の時代でもあった。

 五輪を取り巻く情勢の急激な変化が、説得力ある時代考証で描かれる。緊迫感が途切れない。サダイキス、アイアンズらの演技も、主役のジェームスを脇から支える。

 ナチスのスローガン一色のスタジアムで、オーエンスは4つの金メダルを獲得。人種に優劣がないことを証明し、ナチスの鼻をあかした。しかし、米国での差別はなくならなかった。歴史の皮肉でもある。

(文・魚躬圭裕)

「栄光のランナー 1936ベルリン」(2016年、米・独・カナダ)

監督:スティーブン・ホプキンス
出演:ステファン・ジェイムス、ジェイソン・サダイキス、ジェレミー・アイアンズ、ウィリアム・ハート、カリス・ファン・ハウテン

2016年8月11日(木・祝)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://eiko-runner-movie.jp/

作品写真:(C)2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

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2016年08月09日

夏の香港・中国エンターテイメント映画まつり 今人気の映画そろい踏み 質と勢い知る貴重な特集上映

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「モンスター・ハント」(15)中国

 その昔、妖怪と人間は共存していた。しかし人間が天下を独占すると妖怪は山奥に追いやられ、やがて妖怪の世界は内乱状態に。新王は先王一族を一掃。王子は妊娠中の王妃、忠臣たちと命からがら人間界へと逃げ、人里離れた小さな村の村長テンイン(ジン・ボーラン)に出会う。追いつめられた王妃は、テンインに自分の子供を託す。なんとテンインは男でありながら妖怪の王子をお腹に宿してしまう──。

 中国で過去最高の興行収入を記録した「モンスター・ハント」。監督は「シュレック3」(07)でクリス・ミラーと共同監督を務めたラマン・ホイ。美術総監督はクエンティン・タランティーノ監督「キル・ビルvol.1」(03)、「ヘイトフル・エイト」(15)の種田陽平が務めている。

 人間と妖怪の間に生まれる友情と絆を描く。最新の3DCGとワイヤーアクション、カンフーをミックスした娯楽作だ。核となる妖怪のキャラクターデザインが「かわいい系CGアニメ風」過ぎて現実感に乏しいが、逆にそこが中国の観客に受けたのかもしれない。子供から大人まで楽しめる作品だ。

作品写真:(C)2015 EDKO FILMS LIMITED, DREAM SKY PICTURES CO., LTD., SHENZHEN TENCENT VIDEO CULTURE COMMUNICATION LTD., HEYI PICTURES CO., LIMITED, BEIJING UNION PICTURES CO., LTD. ,ZHEJIANG STAR RIVER ARTISTE MANAGEMENT COMPANY LIMITED, SAN-LE FILMS LIMITED, ZHEJIANG FILMS & TV (GROUP) CO., LTD., EDKO (BEIJING) FILMS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

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 「西遊記 孫悟空VS白骨夫人」(16)中国・香港合作

 孫悟空(アーロン・クォック)が五行山に閉じ込められて500年後。経典を得るため天竺へ向かう三蔵法師(ウィリアム・フォン)は道中虎に襲われる。危機を救うため封印を解かれた孫悟空は猪八戒、沙悟浄らと三蔵法師のお供をすることに。三蔵法師は恐ろしい妖怪・白骨夫人(コン・リー)に命を狙われていた──。

 「西遊記 孫悟空VS白骨夫人」は、同じ「西遊記」を題材にした「モンキーマジック 孫悟空誕生」(15)に続くシリーズ第2弾だ。前作が孫悟空が五行山に閉じ込められるまでを描いたのに対し、今回は孫悟空が三蔵法師のお供をして猪八戒、沙悟浄と天竺を目指す。

 監督は前作に引き続きソイ・チェン。アクション監督はジャッキー・チェン、ユン・ピョウらと「七小福」として活躍し、日本では「燃えよデブゴン」(78)で人気を得たサモ・ハンが務める。音楽には「ヘルレイザー」(87)などハリウッドでホラー、ファンタジー映画を得意とする大御所クリストファー・ヤングが担当している。

 日本人にはテレビドラマ「西遊記」(78〜80)と共通する親しみやすい物語。ハリウッドのスタッフを招いたVFX満載、迫力アクションの連続で楽しい。孫悟空役のアーロン・クォックの猿らしいコミカルな仕草、ダイナミックなアクション。コン・リーが冷酷非情な悪役で凄味をみせる。観音菩薩で日本でも人気ある女優ケリー・チャンまで登場。ビジュアル重視、豪華絢爛の21世紀版「西遊記」として楽しめる。

作品写真:(C)2016 FILMKO FILM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

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 「ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説」(15)中国
 
 1974年、崑崙山の洞窟。古代の巨獣とみられる未確認生物の骨が発見され、大規模な発掘調査が始まった。調査隊として洞窟の奥に進んだフー・バーイ(マーク・チャオ)とヤン・ピン(ヤオ・チェン)らは、1万年前に地球を支配しようとした異星人が封印されている宮殿“妖魔塔”に到達。しかし、突如現れた火炎コウモリの群れに襲われ、フー・バーイ以外全員が消息不明になる。

 SFミステリーとモンスター・パニックを融合させた「ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説」は、「ミッシング・ガン」(02)でデビューを果たしたルー・チューアン監督が初めて手掛けた娯楽作だ。脚本には米テレビドラマ「プリズン・ブレイク」「LOST」の演出で知られるボビー・ロス、その息子で俳優兼脚本家のニック・ロス。VFXアドバイザーに「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのジョン・シールズ、「シン・シティ 復讐の女神」(14)のマイケル・グローブが参加している。

 巨大未確認生物発掘の歴史をひも解く記録フィルムをつなげたタイトルで幕開け。「セブン」(95)のタイトルデザインを手がけたカイル・クーパー風のミステリアスなもので、断片的な記録フィルムを使い、観客のイマジネーションを刺激し、つかみとしてうまい。作品は大きく分けて3つのパターンで構成されている。

 フー・バーイが未確認生物調査隊として参加する冒頭は火炎コウモリ、巨大生物、妖魔塔が登場する冒険アクションミステリー風。調査から唯一生還したフー・バーイの現在を描いた中盤は一転、妖魔塔の謎を検証する濃厚なミステリードラマに変貌。途中コミカルな描写をはさみつつ、巨大生物が登場するシーンは、元祖「キングコング」をリスペクトした。後半は行方不明となったヤン・ピンとうり二つの女性シャーリーと共に、調査隊に参加したフー・バーイが魔族が放った巨大モンスターと壮絶な死闘を展開。モンスターパニックへと変貌する。

 冒険活劇、ミステリードラマ、VFXで作られた俊敏な巨大モンスターと調査隊の戦い。一つで何度もおいしい。サービス精神旺盛で、観客を楽しませる作家の心意気。ハリウッド映画を見慣れた観客も納得のCGモンスターが大暴れするクライマックス。ひねりを利かせた意表突いたオチまで見どころ満載だ。

 3本通して見ると、現在の中国、香港エンタメ映画のクオリティーと勢いを知れる貴重な特集上映だ。

(文・藤枝正稔)

作品写真:(C)2016 CHINA FILM CO., LTD. DREAM AUTHOR PICTURES (BEIJING) CO., LTD. LE VISION PICTURES (BEIJING) CO. LTD.

2016年8月6日(土)、シネマート新宿ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://asian-selection-movie.com/

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2016年08月06日

「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」登山家オム・ホンギル氏に聞く「自然に入る時は『愛する気持ち』が重要」

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 ヒマラヤ8000メートル級14座登頂に成功した韓国の登山家、オム・ホンギル氏と仲間の友情を描いた「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」が公開されている。モデルとなったオム氏は韓国を代表する登山家の一人。映画はエベレスト頂上付近で遭難死した後輩のため、危険を顧みず遺体回収に向かった実際のエピソードを描く。オム氏は豊富な登山経験を振り返り「自然の中に入る時は『愛する気持ち』が重要」と語った。

 2004年。引退したオム・ホンギル(ファン・ジョンミン)のもとに、後輩の登山家パク・ムテク(チョンウ)遭難の知らせが入る。オム氏はエベレスト8750メートルに残された遺体を家族のもとに帰すため、後輩たちとチームを結成。翌05年、決死の覚悟で再びピッケルを握る。

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 作品のモデルとなったオム氏は、アジアで初めてヒマラヤ8000メートル級14座の登頂に成功した。後輩のパク氏とは20代で出会い、カンチェジュンガ、K2、シシャパンマ、エベレストの8000メートル級4座をともに登った仲だった。映画では二人の出会い、輝かしい遠征の記録、別れと「再会」までを描いている。オム氏は遺体回収に向かった11年前を振り返る。

 「完成した作品を観た後、胸がつまり息苦しくなりました。リアルにあの時の状況がよみがえり、悲しみがこみ上げて。映画化にあたっては『私の志が伝わるよう表現して』と求めました。(パク氏らの)遺族に迷惑をかけたり、傷つけないようにしてほしいと」

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 「後輩の遺体を回収に行く」と告げた時、周囲の反応は厳しいものだった。オム氏は孤軍奮闘する。すでに引退した仲間たちに声をかけ、資金を募る。やがて熱い思いに応え、かつての山仲間たちが集まってきた。再び訓練を経ての遠征は、記録も名誉も求めず、ただ友情に支えられていた。

 「人々には君のもどかしさ、つらさは100%理解する。だがどうみても不可能な計画だ、と言われました。行けばまた遭難や大事故につながる可能性がある。否定的な意見がほとんどでした」

 女性で世界初のエベレスト登頂に成功した田部井淳子氏は、オム氏の行動に「多くの苦悩、葛藤、逡巡に見舞われただろう。険しい旅路を支えたのは、恵まれた体力、技術、運……一番は『どうしても回収したい』という強い思いに、山が『来い』と応えてくれたからではないだろうか」と言葉を寄せている。

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 数々の死線を乗り越えてきたオム氏自身、山へ向かう際は「いつも恐怖を感じる」という。遠征地へ向かう飛行機が離陸する際、「もう一度韓国に戻ってこられるだろうか」と感じてきた。一線を退いた今は、穏やかな気持ちで楽しんで山に登れるようになった。

 「自然に入る時は『愛する気持ち』が重要です。謙虚な気持ちで山に向かえば、自分が癒され、他者と心を通わせることもできる。嫌だという気持ち、拒否する心は破壊につながります。登る行為が自分にとって害になり、事故につながるのです」

 オム氏は50代後半を迎え、若者たちへの登山指導、ヒマラヤのシェルパの家族の支援活動に力を入れている。貧しさから教育を受けられない子供たちのために学校や奨学金を作った。

 「人間関係が希薄になり、情や命の尊厳が軽視される時代。命よりも重いものがあることを、作品を観た人に伝わればうれしいです」

(聞き手・写真 遠海安)

「ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆」(2015年、韓国)

監督:イ・ソクフン
出演:ファン・ジョンミン、チョンウ、チョ・ソンハ、キム・イングォン、ラ・ミラン

2016年7月30日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://himalayas-movie.jp/

作品写真:(C)2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

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2016年08月03日

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督に聞く「歴史は理解なしに受け継げない」

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 仏パリ郊外の公立高校。人種や宗教が入り混じった落ちこぼれクラスが、ある授業をきっかけに「奇跡」を起こす──。フランスの抱える人種問題、若者の葛藤を描いた「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」が2016年8月6日公開される。マリー=カスティーユ・マンション=シャール監督は「歴史は理解なしに受け継げない」と語った。

 荒れ放題で学校にもさじを投げられたクラスに、歴史のアンヌ・ゲゲン先生がやって来た。教員歴20年。にこやかだがきっぱりと「教えることが大好きで、退屈な授業はしないつもり」と話し、問題児たちに課題を与える。「アウシュビッツ(強制収容所)」をテーマに歴史発表の全国コンクールに出ること。生徒は反発しながらも、渋々資料を調べ始める。

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 壁にぶつかりながら調査を進めていたある日、生徒たちは収容所の生存者、レオン・ズィゲル氏の証言を聞く。収容所の悲惨な日々、父との別れ。ホロコースト(大量虐殺)を生き延びた重い言葉に、生徒一人一人の表情や姿勢が変わっていく。

 映画はイスラム教の女子生徒親子と教師の言い争いから始まる。スカーフの着用を禁じる学校に反発する生徒。歴史を理解し、相手と文化を理解することは、人種と宗教が入り乱れるフランスでは容易ではない。なにげない言葉が相手を傷つけかねない。フランスの現状を反映した描写だ。

 「フランスでは今、(移民)3世ですら自分をフランス人と感じない人が増えています。なぜか。フランスについて相続できていないからです。歴史を受け継ぐ行為は重要。でも遺産相続と異なり、理解なしには受け継げません。また子供はいつの時代も残酷です。成長の過程で人を傷つけるのは、自分に自信がないから。問題の答えを用意してくれる人、つまり先生が必要なのです」

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 ゲゲン先生が用意した答えは、ホロコーストを生き延びたズィゲル氏の講義だった。当初は「自分が出る意味が分からない」と出演を拒まれたという。何度も「映画ならあなたの人生の戦いをより多くの人に伝えられる」と説得を試みて実現した。作品を観たズィゲル氏は「完全に理解した」と話したという。

 「彼は自身の息子がこの映画をいかに誇りにしているかを感じたそうです。さらに一緒に観た観客の反応を見て、自分が出た意味を瞬時に理解してくれました。彼が受け継ぐもの、相続するものが、映画の中に存在しているのを見出してくれたのです」

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 フランスでは昨年以降、大規模なテロが相次ぎ、他者への不寛容が重い問題として人々にのしかかっている。

 「テロが起きて以降、この映画に対する反響は大きくなりました。事件によって同じ作品でも反響や評価が変化します。学校の中では人種差別や偏見がありますが、そういうことは二度とあってはならないと思います」

(聞き手・魚躬圭裕、写真・阿部陽子)

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(2014年、フランス)

監督:マリー=カスティーユ・マンション=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌビエーブ・ムニシュ、ステファン・バック

2016年8月6日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿ほかにて全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kisekinokyoshitsu.jp/

作品写真:
(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

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