2016年07月08日

「ひと夏のファンタジア」奈良を舞台に日韓合作 穏やかに流れる時間 チャン・ゴンジェ監督最新作

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 奈良県五條市を舞台にした日韓合作映画「ひと夏のファンタジア」が、渋谷ユーロスペースほかで公開されている。韓国チャン・ゴンジェ監督の長編3作目。日本から岩瀬亮、韓国から女優のキム・セビョクが主演している。

 2012年、奈良県の「なら国際映画祭」による若手監督支援プロジェクト「NARAtive」に選ばれたチャン監督が、日本と韓国の俳優、スタッフで製作した。奈良県出身の河瀬直美監督が製作を担当している。

 設定や役柄が異なる二つのストーリーを2部構成で描く。いずれも岩瀬とキムが主演。1部は韓国から五條に調査に来た映画監督テフン(イム・ヒョングク)が、日本語を話す助手のミジョン(キム)とともに、市の観光課職員・武田(岩瀬)の案内で町を歩く。古い喫茶店、廃校、一人暮らしのお年寄りの家を周る。滞在最後の夜、不思議な夢を見たテフンは、窓の外に上がる花火を見る。

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 2部は韓国から五條に来た女性ヘジョン(キム)が、観光案内所で出会った柿栽培農家の青年・友助(岩瀬)と、五條の古い町を歩く。「ひとりになる時間が必要だった」と話すヘジョン。初対面から彼女にひかれた友助は、徐々に距離を縮めようとする──。

 韓国から来た異邦人が、偶然に導かれるまま日本の田舎町を歩く。山に囲まれた五條には、ゆったりとした空気と時間が流れている。ささやかで穏やかなロードムービーの趣。チャン監督によると、1部の脚本は撮影前から固まっていたが、2部の内容は現地で決めていったという。

 「もともと二つのエピソードを盛り込むつもりだった。一つ目は自分自身の話。もう一つは歴史に興味がある韓国人女性の話。二人にそれぞれ二役を演じてもらったのは、時間と予算的な制限があったから。日本に来てから思いついた」

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 キムが演じたミジョンとヘジョンは、ともに「日本語ができる」設定。日本語のせりふが多い撮影をキムは「大変だった」と振り返る。

 「きつかった。だからこそ撮れたとも思う。上映後に観客の意見を聞くと『友助とヘジョンの沈黙のシーンが気に入った』と言ってくれる人が多かった。あの沈黙は、私の日本語が流暢なら生まれなかった。監督が沈黙に気付き、演出で生かしてくれた」

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 監督と共演女優、韓国の二人にはさまれた岩瀬は、自然体で挑んだ。海外作品への出演は初めて。「日本語、韓国語、つたない英語」が飛び交う現場を楽しんで過ごしたという。映画祭を通じて知り合ったチャン監督とは、長い付き合いの友人同士だ。「日本と韓国の違いというより、チャン監督独自の撮影手法が新鮮だった」と話す。

 チャン監督によると、日韓とも上映後の反応はすこぶるいいという。韓国から舞台になった奈良を旅行で訪れる人もいるそうだ。

 「韓国では20代の女性の観客が多かった。旅先の外国で生まれるロマンスが受けたのだろう。日本では自分の故郷への懐かしさを、五條に重ねた人が多いように感じた」

 日本と韓国、五條の山並み。静かに流れる空気と時間が、観る者を包み込む作品だ。

(文・写真 遠海安)

「ひと夏のファンタジア」(2014年、日本・韓国)

監督:チャン・ゴンジェ
出演:キム・セビョク、岩瀬亮、イム・ヒョングク、康すおん

2016年6月25日(土)から渋谷ユーロスペースでレイトショー。シネ・ヌーヴォ(大阪)ほかで全国順次公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hitonatsunofantasia.com/

作品写真:(C)Nara International Film Festival+MOCUSHURA

撮影協力:ときのもりLIVRER http://www.tokinomori-nara.jp/livrer/



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2016年07月05日

「死霊館 エンフィールド事件」説得力あるドラマ、ショック演出、美しい幕引き ワン監督のホラー到達点

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 英ロンドン北部のエンフィールド。シングルマザーのペギー・ホジソンと子供4人は、室内の奇妙な物音に悩まされていた。あろうことかある日、家具が勝手に動き出し、家族を攻撃するようになる。テレビが取材に訪れたところ、11歳の次女ジャネットが怒り出し「出て行け」と老人のような声を出した──。

 「ソウ」シリーズのジェームズ・ワン監督作「死霊館」(13)の続編。1977年に英国で起きた「エンフィールド事件」をベースにした実録ホラーだ。前作に続いてパトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが、超常現象の解明を依頼された米研究家ウォーレン夫妻を演じる。

 冒頭でやはり1965年に米で起きた「デフェオ一家殺害事件」が取り上げられる。家に取り憑いた霊をみるショッキングな描写で、過去には映画「悪魔の棲む家」(79)の題材にもなった。続いて舞台はエンフィールドへ。ホジソン家の次女ジャネットの霊憑依を時系列で描いていく。

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 ワン監督の演出は正攻法で丁寧だ。ホジソン家で発生する超常現象を一つ一つ積み重ね、事件の全体像を観客が納得できるように提示する。ウィリアム・フリードキン監督「エクソシスト」(73)同様、あくまでリアリティーを追求している。こけおどしのショック演出とは正反対に、ドラマと恐怖を融合させ、作品に緊張感を与える。

 「エクソシスト」との共通点も多い。時代設定に加えて、少女に霊が憑くことで表れる奇妙な行動。場所は住宅密集地の室内で、外は平和な町並みが広がる。静と動の対比により、ホジソン家で起きている異常事態を際立たせる仕組みだ。

 巧みな演出は恐怖シーンにとどまらない。全体にピンと緊張の糸を張る一方で、さりげなくなにげない日常風景をはさみ込む。クリスマスの日。パーティーの席でエルビス・プレスリーの「好きにならずにいられない」が弾き語りされる。優しい歌声に心がなごむ。うまい緩急の付け方だ。

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 ワン監督は実録物の制約の中、事件全体を忠実になぞりつつ、真正面から破綻させずにドラマを積み上げだ。一見古風な作風だが、最新技術も十分に投入。屋外から室内への継ぎ目ない撮影、大胆なCG(コンピューター・グラフィックス)。映画ならではの想像の翼を羽ばたかせている。一時は「ホラー引退」も口にしたワン監督だが、饒舌な語り口は健在だ。説得力あるドラマ、ショック演出、美しい幕引き。監督としてピークに到達した印象すら受ける。

(文・藤枝正稔)

「死霊館 エンフィールド事件」(2016年、米国)

監督:ジェームズ・ワン
出演:ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、フランシス・オコナー、マディソン・ウルフ、フランカ・ポテンテ

作品写真:(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

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ユ・ヨンソク来日「ともに歩ける、温かい俳優になりたい」

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 韓国人俳優のユ・ヨンソクがこのほど来日し、日本で初めてのファンミーティングを開催した。

 デビュー13年。映画やドラマに多く出演するほか、ミュージカルやバラエティーなど活動の幅を広げている。最近ではドラマ「応答せよ1994」(13)、「幸せのレシピ 愛言葉はメンドロントット」(15)、映画「ビューティ・インサイド」など出演作が次々と日本で紹介された。初主演映画「その日の雰囲気」も7月23日、日本公開される。

 ファンミーティング前の記者会見では「韓国まで会いに来てくれるファンが最近増えたので、日本のファンに直接会いにくることができてうれしい」と語った。「日本の人たちが作品をどうみているか、とても気になっていた」とも話した。

 昨年は初のミュージカル「壁抜け男」に出演。「ミュージカルにはとても出たかったが、簡単なことではなかった。最初は心配したけれど、観客の皆さんの反応をもらい、一緒に呼吸できる感じがよかった」と振り返った。

 イベントでは会場を埋めたファンをみて感激した様子。言葉を詰まらせながら「皆さんの心の中で、温かい俳優になれるよう最善を尽くします。ともに歩ける俳優になりたい」と決意を語っていた。

(文・岩渕弘美)

タグ:イベント
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2016年07月03日

「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」来日のミア・ワシコウスカ「アリスと重なる部分が演技に役立った」

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 児童小説の古典「不思議の国のアリス」を映画化した「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」が2016年7月1日公開された。前作「アリス・イン・ワンダーランド」から6年ぶりの続編。アリス役のミア・ワシコウスカが公開に先立ち来日。「アリスと重なる部分が演技に役立った。多くのことを学んだ」と語った。

 ジョニー・デップ主演、ティム・バートン監督製作の人気シリーズ。ワシコウスカは「冒頭でアリスは過去を変えようとするけれど『その瞬間を生きる』ことの大切さに気付き、過去を受け入れようとする。周りにある大切なものの存在を再認識し、未来に向かって進む姿が描かれる」と説明した。

 前作から6年ぶりの作品で、アリスの成長ぶりも見どころ。ワシコウスカは「アリスは自立した女性として、亡き父の残した船に乗り船長として活躍している。私もこの役に出会い、俳優として多くのスタッフに出会い、多くのことを学んだ。アリスと重なる部分が演技に役立ったと思う」と振り返った。

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 メガホンを取ったジェームズ・ボビン監督は「1作目でバートン監督が作った世界観が基礎になっている。さらに原作の挿絵にあったビクトリア朝の雰囲気を取り入れた。1作目とは年代も地理的にも設定が変わっている。ルイス・キャロルの原作に頼るだけでなく、映画によって物語をつけることに力を入れた」と話していた。

 この日の記者会見は、作中に登場した「お茶会」のシーンにちなんで会場をセッティング。和風の茶室や床の間、障子と作品のイメージを融合させた。日本らしいお菓子やお茶も用意され、ワシコウスカらを喜ばせた。

「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」(2016年、米国)

監督:ジェームズ・ボビン
出演:ジョニー・デップ、アン・ハサウェイ、ミア・ワシコウスカ、ヘレナ・ボナム=カーター

2016年7月1日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.disney.co.jp/movie/alice-time.html

作品写真:(c) 2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. / Disney.jp/Alice-Time

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2016年07月02日

「ホース・マネー」ポルトガルの鬼才ペドロ・コスタ監督に聞く 移民の記憶と圧倒的な映像美「映画は歴史に一番似ている」

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 独特の映像美と視点で知られるポルトガルの鬼才、ペドロ・コスタ監督。最新作の「ホース・マネー」を含め、リスボンのスラム街を舞台にした3部作が現在、東京・渋谷のユーロスペースで上映されている。

 「ホース・マネー」(14)、「ヴァンダの部屋」(00)、「コロッサル・ユース」(06)の3作品。いずれも首都リスボンのスラム街、フォンタイーニャス地区に住む人々を、少人数のスタッフで撮っている。「ホース・マネー」は前作の「コロッサル・ユース」同様、アフリカ西海岸のカーボ・ヴェルデからの移民男性、ヴェントゥーラが主人公。ポルトガルの独裁体制を終わらせたカーネーション革命、アフリカ諸国の独立などの近代史を、一人の男の記憶を通じて浮かび上がらせる。

 ヴェントゥーラの人生は終わりに近づいている。地下の暗い階段を降りていく。手は震えている。病室のベッドに横たわる。親せきや知人が訪ねてくる。体に力はなく、最期の時を待つようだ。医師に年齢を問われ「19歳3カ月」と答える。彼の意識はどこにあるのか。

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 生まれ故郷カーボ・ヴェルデ出身の女が現れる。「ポルトガルにいる夫が死んだ」という。ヴェントゥーラは「病気だがまだ生きている」と返す。女は「あんたは地獄に向かう旅の途中だ」と言い放つ。ヴェントゥーラの故郷の家は壊れた。飼っていた馬も死んだ。カーボ・ヴェルデの人々の生活は苦しいままだ。

 森の中。武装した兵士たち。廃墟になったレンガ工場。つながらない電話。病院の無機質なエレベーター。兵士が繰り返し尋ねる。「ヴェントゥーラ、今どこにいる?」。兵士はいったい誰なのか──。

 作品に現れるモチーフは明確な「意味」を提示しない。何かの象徴であることも示唆しない。あるのはただヴェントゥーラの肉体と言葉。事象は彼の過去へ飛ぶ鍵に過ぎない。観客は断片的で圧倒的な映像に目を凝らし、せりふの持つ意味を探ろうとする。コスタ監督は言う。

 「『ホース・マネー』ではヴェントゥーラの最もつらい過去を語った。映像の中に入れてしまえば、過去は彼を後ろから襲うこともないだろう。撮ることですべて体から出すことが大事だと思った」

 ポルトガルにおいて、カーボ・ヴェルデから来た移民はマイノリティーであり、人々の話題になることもないという。

 「彼らについて語る意味があると思った。過去について考え、過去が自分たちにどう影響しているか。いつも目の前に語るべきものがある。私は歴史を学んできた。すべての芸術表現の中で、映画が歴史に一番似ていると思う」

(文・写真 遠海安)

「ホース・マネー」(2014年、ポルトガル)

監督:ペドロ・コスタ
出演:ベントゥーラ、ヴィタリナ・バレラ、ティト・フルタド、アントニオ・サントス

「ホース・マネー」は渋谷・ユーロスペースほかで全国順次公開中。「ヴァンダの部屋」は7月2日(土)〜7月8日(金)、「コロッサル・ユース」は7月9日(土)〜7月15日(金)、ユーロスペースで35ミリフィルム上映。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cinematrix.jp/HorseMoney/

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