2016年06月06日

「葛城事件」舞台あいさつ 無差別殺人と家族の葛藤 三浦友和「何かが必ず生まれる作品」

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 無差別殺人事件と家族の葛藤を描く映画「葛城事件」の完成披露上映会がこのほど東京・新宿で開かれ、主演の三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈、赤堀雅秋監督が舞台あいさつした。

 理想の家庭を思い描くあまり、妻子に対して抑圧的になる父を演じた三浦。赤堀監督は「多面的な表現ができ、怖さや優しさ、いろいろなものを秘めている。(出演を)引き受けてもらえなかったら、映画そのものがなかったかもしれない」と絶賛。三浦は「(北野武監督の)『アウトレイジ』(10)で悪いイメージがついた」と冗談交じりに話しながら、自らを「二重人格どころか、多重人格。そうでないと俳優は務まらない」と語った。

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 夫に支配され、次第に精神を病んでいく妻を演じた南。「役との共通点、共感できる部分を探さず飛び込んだ。友和さんを100%信頼しているからできた。現場でもすごい存在感があった」と絶賛した。

 新井と若葉は兄弟役。従順だが対人関係に悩む兄を新井、無差別殺人事件を起こし死刑判決を受けた弟を若葉が演じている。オーディションで役を射止めた若葉は「緊張したけれど、絶対に自分で取ってやると思った」。赤堀監督は「尋常ではない、演技を超えた何かがあふれていた。満場一致で決めた」と振り返った。

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 若葉演じる死刑囚と獄中結婚する女性を演じた田中は「彼女を知るにはどこから手をつければいいか」と役作りに苦労した様子。「クランクインの10日ぐらい前に(出演の)話をもらい、誰かが断って回ってきたのかと思った。この脚本でやりたい、ラッキーと思った」と笑顔を見せた。

 主役決定は撮影開始の1カ月前。赤堀監督が「皆さんの前にいるのも綱渡りで奇跡みたい」と話すと、新井から「脚本を書くのが遅い」と突っ込みも。家族の抑圧、無差別殺人と重いテーマの作品と裏腹に、終始和気あいあいとした雰囲気だった。

 最後に三浦が「観終わった時に一言では言えない何かが必ず生まれる。『良かった』でも『不快』でもいい。誰かに伝えてもらえれば(製作規模の)大きな作品と同じところに並べる」と呼びかけた。赤堀監督は「三浦さんに『10年に1度の映画に出会えた』とメールをもらい泣いた。それぐらい自信を持った作品」と締めくくった。

(文・写真 岩渕弘美)

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「葛城事件」(2016年、日本)

監督・脚本:赤堀雅秋
出演:三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈

2016年6月18日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://katsuragi-jiken.com/

作品写真:(C)2016「葛城事件」製作委員会
タグ:イベント
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2016年06月03日

「サウスポー」ジェイク・ギレンホールが肉体改造 転落ボクサーの再生熱演

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 ジェイク・ギレンホールが「ナイトクローラー」に続き、肉体改造のアクセルを踏み込んだ。アントワン・フークア監督新作「サウスポー」は、ボクシング世界チャンピオンの転落と再生を描く人間ドラマ。ギレンホールが半年の訓練で7キロ減量し、ボクサーの「体」を得て熱演する。

 米ニューヨーク。ボクシング世界ライトヘビー級チャンピオンのビリー(ギレンホール)は、怒りにまかせて戦う過激な選手だ。しかし、自分の起こした暴力沙汰に巻き込まれ、最愛の妻モーリーン(レイチェル・マクアダムス)が死んでしまう。ビリーは自暴自棄に陥り、地位も名誉も財産も喪失。幼い娘レイラ(オオーナ・ローレンス)とも引き離され、人生のどん底に突き落とされる。

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 暗闇でもがくビリーは、アマチュア・ボクシングのトレーナー・ティック(フォレスト・ウィテカー)に救いを求めた。「お前の短気は命取りだ」、「腕力ではなく頭を使え。ボクシングはチェスと一緒だ」。ティックの厳しい言葉に、ビリーは自らと向き合い、再生への道を探る。自分を信じた妻に報い、愛する娘と再び暮らすため──。

 ギレンホールの人物造形が光る。短気で粗野、力で相手をねじ伏せるチャンピオン。怒り=負のエネルギーでスターダムを駆け上がった男が、妻を失い初めて自らを律し、他人の言葉に耳を傾け、真の強さを知る。ギレンホールは肉体だけでなく、陰うつとした眼差しまで作り上げている。

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 デンゼル・ワシントンの悪役が記憶に残る「トレーニング・デイ」(01)と同様、フークア作品には共通して刹那的な空気が漂う。重く激しい男たちの中、妻を演じたマクアダムスが一服の清涼剤のように、甘く可憐な空気を放っている。

(文・遠海安) 

「サウスポー」(2015年、米国)

監督:アントワン・フークア
出演:ジェイク・ギレンホール、レイチェル・マクアダムス、フォレスト・ウィテカー、オオーナ・ローレンス、カーティス・“50セント”・ジャクソン

2016年6月3日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://southpaw-movie.jp/

作品写真:Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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2016年06月01日

「FAKE」佐村河内守氏とは何者なのか ラスト12分の展開に驚愕

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 聴覚障害のある作曲家として注目を浴びた。“現代のベートーヴェン”と称えられ、テレビにも出演。独特の風貌もあいまって、その名はたちまち日本中にとどろいた。ところが2014年、ゴーストライターの存在が発覚。メディアは一斉に手の平を返し、バッシングを浴びせる。一転して詐欺師へと堕(お)ちた「天才」は、トレードマークの長髪をカット。サングラスも外して謝罪会見し、騒動に自ら終止符を打った。

 その後、表舞台から遠ざかり、自宅に引きこもった佐村河内守氏。「FAKE」は素顔と本心に迫ったドキュメンタリーである。監督はオウム真理教信者たちを追った「A」(98)、「A2」(01)の森達也。「嫌なら撮影途中でカメラは止めてもよい」との条件付きでカメラを向けていく。

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 解消されていない疑問はいくつかある。「本当に耳は聞こえないのか」、「作曲はまったくできないのか」。これらの点について森監督は率直に質問し、佐村河内氏は誠実に回答していく。だが、それでも完全には納得できない。得心がいかない森監督。説得しきれない佐村河内氏。ともに焦れて疲れた2人は、ベランダに出てタバコを吸う。

 テレビ局から出演依頼のスタッフがやってくる。自分をどん底に突き落としたメディアに不信を抱く佐村河内氏は、オファーを蹴るが後日、放送された番組で自分がコケにされているのを見て愕然とする。モニターにはゴーストライターからタレントに転身した新垣隆氏が、お笑い芸人相手にはしゃぎまくっている様子も映し出されていた。

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 最もこたえたのは、海外メディアの取材だったろう。日本の記者と違い、遠慮のないストレートな質問が追い詰める。「作曲した証拠があるのか」、「なぜ家に楽器がないのか」。答えに窮する苦しげな表情を、カメラは逃さない。しかし、この場面が驚愕のラスト12分の呼び水になることを、森監督はもちろん、佐村河内氏自身もまだ知らないのである。

 もう一つ見どころがある。佐村河内氏の妻かおりさんの存在だ。手話通訳として夫をサポートしてきた妻。何が起ころうと動じない強さ。夫の才能を信じて疑わない盲目的信念。“大スクープ”ともいうべきラストの奇跡は、彼女の存在抜きには起こらなかったに違いない。

(文・沢宮亘理)

「FAKE」(2016年、日本)

監督:森達也

2016年6月4日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.fakemovie.jp/

作品写真:(c)2016「Fake」製作委員会
posted by 映画の森 at 16:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする