2016年06月16日

「クリーピー 偽りの隣人」日常のゆがみにひそむ心の闇 香川照之が怪演 

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 犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は、刑事・野上(東出昌大)に6年前に起きた一家失踪事件の分析を頼まれる。事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)の記憶をたどるも確信できずにいた。一方、高倉が妻の康子(竹内結子)と最近引っ越した新居の隣人・西野(香川照之)はどこか奇妙だった。病弱な妻と中学生の娘・澪(藤野涼子)を持つ西野との会話に翻弄され、困惑する高倉夫婦。ある日、高倉は澪に「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」と告げられ驚く──。

 前川裕の原作小説を、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した「岸辺の旅」(14)の黒沢清が監督した「クリーピー 偽りの隣人」。日常と非日常のゆがみから生まれる恐怖を、独自のスタンスで描いてきた黒沢の新作は、未解決事件の真相を追う心理学者が主人公だ。

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 奇妙な隣人を演じる香川の怪演が、ねっとりした演技で周囲を巻き込んでいく。西島演じる高倉はかつて刑事だったが、ある失態から辞職。今も警察とつながりがあり、後輩の野上に捜査協力を頼まれるほど信頼されている。西野は一人娘の澪を溺愛している。なぜか昼間も家にいて、高倉の妻・康子と接点が多い。引越し先で近所付き合いを気にかける康子は、話がかみ合わない西野に振り回され、憔悴していく。

 点と点だったエピソードが線になり、驚きの事実が暴かれる。人間の心を闇を巧みにあぶり出す黒沢監督。冒頭の取り調べシーンで感じた違和感が、次第に何らかの予兆になり、西野の怪しさへつながっていく。人間関係をかき乱す香川の変幻自在の演技が作品を引っ張っていく。

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 しかし、現実的な日常を描く中盤までと、作り込み過ぎたセットが気になる後半のバランスが悪くなったのが惜しい。とはいえ、人気俳優をそろえただけのスリラーにとどまらず、犯罪に巻き込まれる心理、犯罪者の身勝手な欲望を大胆に描いている。最後まで緊張感が持続し、監督の円熟を感じた。

(文・藤枝正稔)

「クリーピー 偽りの隣人」(2016年、日本)

監督:黒沢清
出演:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之

2016年6月18日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://creepy.asmik-ace.co.jp/

作品写真:(C)2016「クリーピー」製作委員会

タグ:レビュー
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2016年06月15日

「シリア・モナムール」私たちは今も戦場にいる 市民1001人がとらえた壊れ行く祖国

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 映画は監督の言葉で始まる。「撮影したのは1001人のシリア人、そして私」。壊れゆくシリアで、暴力と政治の犠牲になった人々の記録したドキュメンタリー映画「シリア・モナムール」。二人の監督が亡命先の仏パリ、戦火のシリアに分かれ、祖国の現状を伝えていく。

 2011年、中東を覆った民主化の波「アラブの春」がシリアにも届いた。42年続くアサド独裁政権への不満を募らせ、自由を求める市民が大規模なデモを起こす。しかし、政府軍による弾圧が激しさを増し、出口の見えない内戦が始まった。街は徹底的に破壊され、多くの罪なき人々が命を落とした。

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 シリアからパリへ亡命したオサーマ・モハンメド監督は、パソコンに向かい、ネットにあふれる祖国の映像をつなぎ合わせていた。路上に転がる遺体、逃げ惑う人々、無邪気な子供たち。ネットへの発信が、彼にできる唯一のことだった。そこへ見知らぬ女性からメッセージが届く。「あなたがシリアにいたら、何を撮りますか」

 「シマヴ(クルド語で『銀の水』の意味)」と名乗った女性は、シリア政府軍に包囲された町ホムスにいた。オサーマは答えた。「すべてだ」。シマヴはそれを聞き、町へ出てカメラを回し始める。レンズは多くの惨劇を、時には人々の日々の喜びをとらえる。被弾しながらも撮影を続けるシマヴ。一方、安全なパリで、オサーマは自責の念にもかられていた──。

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 ひるがえって日本。シリアの惨状はメディアを通じて伝えられている。しかし、オサーマの言う「すべて」を私たちは目にしているだろうか。戦場の現場映像からは市民生活が見えてこない。破壊された町には今も、希望を抱いた子供たちが暮らし、愛や喜びの火はともり続けているのに。

 「シリア・モナムール」は祖国を思う二人の監督、壊れ行く故郷を映す1001人の願いが込められた作品だ。

(文・魚躬圭裕)

「シリア・モナムール」(2014年、シリア・フランス)

監督・脚本:オサーマ・モハンメド、ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン
写真:ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン、1001人のシリアの人々、オサーマ・モハンメド

2016年6月18日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.syria-movie.com/

タグ:レビュー
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2016年06月13日

「二ツ星の料理人」食と人のアンサンブル ブラッドリー・クーパー、凄腕シェフの再起好演 

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 ブラッドリー・クーパーは不思議な俳優である。「世界にひとつのプレイブック」(12)、「アメリカン・ハッスル」(14)、「アメリカン・スナイパー」(15)と3年連続で米アカデミー賞主演男優賞候補に。ハリウッドのトップに上り詰めているはずなのに、どこか自信なさげで決定打に欠ける。「二ツ星の料理人」はそんなクーパーの個性──突き抜けられない鬱屈をうまく生かした作品だ。

 凄腕シェフのアダム(クーパー)は、酒と女のトラブルで仏パリの二ツ星レストランを追い出された。3年後。英ロンドンで旧友トニー(ダニエル・ブリュール)の助けを借り、新規開店に奔走する。エレーヌ(シエナ・ミラー)、ミシェル(オマール・シー)ら優秀なスタッフを集め、「世界一のレストラン」を作って再起するつもりだった。

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 目標は料理ガイド「ミシュラン」で三ツ星を取ること。ミシュランの覆面調査員来店に備え、スタッフを教育し、入念に料理のメニューを考えるアダム。星を取ることは、アダムにとって過去の清算と再出発を意味していた。

 しかし、完ぺき主義で短気なアダムに、周囲は翻弄される。かんしゃくを起こし、出来上がった料理をぶちまけるアダム。厨房にはピリピリした空気が流れ、スタッフの気持ちはなかなか一つにならない。ぎくしゃくした空気が流れるところへ、ミシュランの調査員らしき客が来店する──。

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 二ツ星を辞めさせられた料理人が、起死回生で三ツ星獲得に挑む。すねに傷を持った男をクーパーが好演。女で一つで娘を育てるエレーヌに、強気でさばさばしたミラーがぴったりだ。シー、ブリュールとも過不足ない演技で脇を固める。エマ・トンプソン、ユマ・サーマンの抑えた演技も楽しい。

 監督はメリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツらの群像劇「8月の家族たち」(14)のジョン・ウェルズ。食と人のアンサンブルをうまく料理している。

(文・遠海安)

「二ツ星の料理人」(2015年、米国)

監督ジョン・ウェルズ
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、オマール・シー、ダニエル・ブリュール、リッカルド・スカマルチョ

2016年6月11日(土)、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://futatsuboshi-chef.jp/

作品写真:Artwork (C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
タグ:レビュー
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2016年06月12日

「ターザン REBORN」アレクサンダー・スカルスガルド来日 洗練と野生の両面表現「しなやかに動ける男目指した」

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 7月30日公開のハリウッド大作「ターザン REBORN」主演のアレクサンダー・スカルスガルドがこのほど来日し、東京都内で記者会見した。

 冒険小説の古典で、過去に何度も映像化されてきた「ターザン」。今回は「ハリー・ポッター」シリーズのデビッド・イェーツ監督が、最新技術を駆使してアクション大作に仕上げた。スカルスガルドの来日は4年ぶり。「日本に戻ってこられてうれしい」と笑顔を見せた。

 今回ターザンは「アフリカのジャングルで育った英国貴族」の一面にスポットをあてる。生後間もなく密林で動物に育てられた野性味と、英国政府からも一目置かれる貴族の両面が表現されている。スカルスガルドは「(ターザンの)解釈が興味深かった。ビクトリア朝時代の英国で、スーツを着てお茶を飲む一方、アフリカに戻ると野性的な部分が顔を見せる。これまでとまったく違うターザンだと思った」と語った。

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 そんなターザンの野性的な部分を表現するため、撮影前に野生動物の生態を学んだという。「野生動物の映像をたくさん見たり、動物園でライオンやチーターを観察したりした。巨大なゴリラと一緒に過ごした。サルと触れ合い、コミュニケーションを取ったことは役作りの参考になった」と話した。

 194センチの長身、見事なスタイルのスカルスガルド。体づくりでは「動ける肉体」にすることを意識したという。「ボディビルダーのようにはなりたくなかった。ジャングルでもしなやかに動けることが大事。ヨガなどにも取り組み、柔軟性のある体にすることを心がけた」と振り返った。

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 また、今回のターザンは愛する妻のジェーン(マーゴット・ロビー)を何者かにさらわれ、取り戻すために故郷のジャングルに舞い戻る。「ジェーンはただ助けられるだけのヒロインではない。誰よりターザンを理解し、ある意味彼を助ける存在だ。互いに必要な関係。とても重要な役割を担っているんだ」と語った。

(文・遠海安)

「ターザン REBORN」(2016年、米国)

監督:デビッド・イェーツ
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、マーゴット・ロビー、サミュエル・L・ジャクソン、クリストフ・ヴァルツ

2016年7月30日(土)、2D/3D全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/tarzan/

作品写真:(c)2016 Edgar Rice Burroughs, Inc. and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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2016年06月10日

「ノック・ノック」一夜の過ちで地獄へ転落 キアヌ・リーブス主演、理不尽限界サスペンス

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 父の日。建築家のエヴァン(キアヌ・リーブス)は、外出する妻カレンと子供を見送り、一人自宅で仕事していた。夜。豪雨の中、玄関をノックする音がする。開けるとずぶ濡れの美女2人が立っていた。暖を取らせるため家へ招き入れたエヴァンだったが、それは地獄への第一歩だった──。

 感染パニック・ホラー「キャビン・フィーバー」(02)でデビューしたイーライ・ロス監督の最新作「ノック・ノック」。近作の「グリーン・インフェルノ」(15)は食人族を取り上げた。今回は人気スターのキアヌ・リーブスを起用。一夜の過ちで人生が崩壊する男の悲劇を描いたサスペンスだ。

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 家族を愛する良き父エヴァンの元に、ジェネシス(ロレンツォ・イッツォ)とベル(アナ・デ・アルマル)が迷い込む。警戒するエヴァンだったが、美女2人はぐいぐい距離を詰めていく。いつの間にか家中に入り込み、バスルームでエヴァンを誘惑。理性を保とうとするエヴァンだったが、ついに誘いに屈してしまう。

 これまでのロス監督作品では、主人公が訪れた先で悪夢に巻き込まれていた。今回は反対に安全なはずの自宅が地獄に変わる。いの一番に思い出したのが、1970年に漫画家の藤子不二雄Aが描いた「魔太郎がくる!!」。招き入れた他人に自宅を乗っ取られるエピソードに似ている。テロに怯える現代心理を映しているのかもしれない。

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 怖いのは入り込んだ2人の目的が分からないことだ。ゲームのように男を誘惑し、落とした翌朝に牙をむき、容赦ない暴力を浴びせる。平和だった男の人生は簡単に壊される。女の闇ともみえる描写に、世の男たちは震え上がるだろう。

 それにしても、ここまで不甲斐ないダメ男を演じるリーブスは初めて。逆にまったく悪びれず悪事をエスカレートさせる2人の怪演がすさまじい。悪趣味な不条理を徹底的に描くロス監督ならではで、観客の嫌悪感を引き出す演出が巧妙だ。積み重ねられる理不尽なエピソードに、不快指数が100%に達することは間違いない。

(文・藤枝正稔)

「ノック・ノック」(2015年、米国)

監督:イーライ・ロス
出演:キアヌ・リーブス、ロレンツァ・イッツォ、アナ・デ・アルマス

2016年6月11日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://knockknock-movie.jp/

作品写真:(C)2014 Camp Grey Productions LLC

タグ:レビュー
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