2016年05月30日

「デッドプール」マーベル発の異色ヒーロー 毒舌で自分中心、過激描写たっぷり

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 百花繚乱のマーベルコミック原作映画に、異色のヒーローが誕生した。人気シリーズ「X-MEN」のスピンオフ(派生作品)、「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」に登場した「デッドプール」。毒舌家で自己中心的な主人公のアクション娯楽作だ。

 元傭兵のウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)は、けちな悪党を懲らしめ日銭を稼いでいた。娼婦ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)と出会って結婚。ささやかな幸せをかみしめる矢先、末期がんと告げられる。そこへある男が怪しい治療方法を勧めてきた。「誰もが夢見る力が手に入る」と誘われ、行った先は不気味な実験室だった。

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 そこは余命わずかな人々の肉体を改造し、殺人兵器として売り飛ばすための施設。責任者のエイジャックス(エド・スクライン)は自分の体にもメスを入れ、超人的な力を身につけていた。繰り返し実験され、驚異の治癒能力と不死の体を得たウェイドだったが、皮膚はただれて無残な外見に。脱走して自前のスーツに身を包み、エイジャックスの行方を追う──。

 「デッドプール」の面白い点は二つ。主人公が観客と自分の間にある「壁」を破ることだ。スクリーンの中からこちらに話しかけてくるため、演出に奥行きが出る。さらに、毒舌と過激描写でヒーロー作品には珍しく、全米で「R指定」された点。原作のキャラクター造形に近づいた。

 派手なアクションと止まらぬジョーク。映画好きが喜ぶ小ネタも多い作品だ。

(文・魚躬圭裕)

「デッドプール」(2016年、米国)

監督:ティム・ミラー
出演:ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、エド・スクライン、T.J.ミラー、ジーナ・カラーノ、ブリアナ・ヒルデブランド

2016年6月1日(水)、TOHOシネマズ日劇ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/deadpool/

作品写真:(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
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2016年05月27日

「鏡は嘘をつかない」海に生まれ、海に死ぬ インドネシア海洋民族の祈りと営み

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 鏡に父は映らない。インドネシアの美しい海。漁から戻らぬ父を待ち、10歳の少女パキス(ギタ・ノヴァリスタ)は水面を見つめている──。

 スラウェシ島南東部の島々・ワカトビ。サンゴなど海の恵みが豊かな場所だ。パキスは「海で生まれて、海で死ぬ」とうたわれる海洋民族のバジョ族。人々は浅瀬に高床式の家を構え、漁業を中心に生活を営んでいる。

 パキスの鏡は父が残したものだった。バジョ族にとって鏡は探し物や「真実」を映し出す大切な道具。パキスは時おり鏡をのぞくが、父の姿は見えない。母のタユン(アティクァ・ハシホラン)は顔を白く塗り、不安や悲しみを押し殺すが、父と鏡に執着する娘には「前を向け」と諭していた。

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 そんなある日、ジャカルタから来たイルカ研究者の青年トゥード(レザ・ラハディアン)が、村長の指示でパキスの家に泊まることになった。戸惑うパキス。部屋を貸すことは、父の死を受け入れることにほかならない。トゥードはパキスとその友人ルモ(エコ)を連れて海に出るが、イルカは見つからない。美しいワカトビにも、地球温暖化の波が押し寄せていた。

 やがてパキスは、都会から来た異邦人のトゥードに思いを寄せ始める。一方、トゥードは次第に地域に溶け込み、タユンと互いを必要とする関係になっていく。タユンは気持ちに区切りをつけられない娘に業を煮やし、「父を忘れろ」と鏡を割ってしまう。母娘の溝は一向に埋まらなかった。

 海は生きる源でもあったが、時に残酷にもなる。テレビに流れる東日本大震災の津波の映像を、静かに見つめるワカトビの人々。父の船が沖合で見つかり、肩を落とすルモ。海の厳しさを痛感したパキスは、ある行動に出る。パキスの求める父の姿は鏡に現れるのか──。

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 「鏡は嘘をつかない」はカミラ・アンディニ監督の初長編作。インドネシア映画界を代表する監督で父親のガリン・ヌグロホがプロデューサーを務めた。ワカトビは1996年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録されている。

 ワカトビの美しさが余すところなく映し出され、食生活、家屋、冠婚葬祭の儀式などバジョ族の文化も散りばめられている。船を自在に操る子供たちから海との一体感が伝わってくる。

 忘れてならないのは、海の表情が一つでないことだ。命をつむぐのも奪うのも海。美しいサンゴ礁、海の恵み、津波、パキスやルモの父たちの悲しい知らせ。寄せては返す波のように、海は日々表情を変える。そんな海の中にこそ、人の営みの強さを感じるかもしれない。

 鏡に父は映らない。のぞき込むと見えるのは、いつもパキス自身だ。彼女が本当に探しているのは父の姿ではなく、不安や悲しみに向き合う自分自身ではないだろうか。

(文・魚躬圭裕)  

「鏡は嘘をつかない」(2011年、インドネシア)

監督:カミラ・アンディニ
出演:ギタ・ノヴァリスタ、アティクァ・ハシホラン、レザ・ラハディアン

2016年6月4日(土)、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.pioniwa.com/kagamimovie/

作品写真:(c)setfilm

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2016年05月24日

「エンド・オブ・キングダム」ロンドンをテロリストが狙う ジェラルド・バトラー主演アクション大作

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 米大統領のシークレット・サービス(警護官)とテロリストの激突を、ジェラルド・バトラー主演で描いた「エンド・オブ・ホワイトハウス」(13)の続編「エンド・オブ・キングダム」。舞台を米ワシントンから英ロンドンに移し、新たな戦いが描かれる。監督にはイラン出身のスウェーデン人、ババク・ナジャフィ。

 ホワイトハウス陥落から2年。シークレット・サービスに復帰したマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)は、米大統領(アーロン・エッカート)に付き添いロンドンへ向かっていた。不可解な死を遂げた英首相の葬儀に参列するためだ。ところが世界40カ国の代表が集まる中、突然同時多発テロが起きる──。

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 前作では北朝鮮のテロリストが敵だったが、今回はパキスタンの武器商人だ。米国のミサイル攻撃で結婚式の最中に家族を殺され、恨みをもって米大統領を攻撃する。犯人を絶対的な悪として描かないところに、現実の複雑な世界情勢が反映されている。

 ロンドンで起きたテロで各国首脳、警官、市民に多くの死傷者が出る。観光名所も次々破壊される中、大統領はかろうじてその場を脱出するが、テロリストの攻撃は執ようだった。最終目的は大統領をとらえ、ネットで全世界に処刑映像を流すこと。バニングは大統領を守り通せるのか。

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 たたみかけるアクション、爆破、破壊の連続だ。一瞬たりとも気を抜くひまがない。誰もが知るロンドンの名所が、特殊効果で派手に破壊される。監督の演出は強引で、やや稚拙な特殊効果シーンも力でねじ伏せる。前作をはるかに上回るスケールだ。大統領と警護官の友情もうまく生かされ、テロに脅かされる現実世界をほうふつとさせる大作となった。

(文・藤枝正稔)

「エンド・オブ・キングダム」(2016年、英・米・ブルガリア)

監督:ババク・ナジャフィ
出演:ジェラルド・バトラー、アーロン・エッカート、モーガン・フリーマン、アロン・アブトゥブール、アンジェラ・バセット

2016年5月28日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://end-of-kingdom.com/

作品写真:(C)LHF Productions,Inc.All Rights Reserved.
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2016年05月20日

「海よりもまだ深く」ままならぬ人生、人はどう受け止めるか 是枝裕和監督最新作

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 生まれ育った団地を久しぶりに訪れた良多(阿部寛)。母の淑子(樹木希林)は留守だったが、おかまいなしに上がり込み、仏壇へ。備えられた大福をほお張り、家の中を物色し始める。目当ては半年前に他界した父が遺したお値打ち物の掛け軸。売りさばいて生活費にあてようという腹だ。しかし、帰宅した母から「捨てた」の一言。良多の計画はあえなく潰(つい)える。

 ダメ男である。15年前に書いた小説が「島尾敏雄賞」を受賞し、一度はスポットライトを浴びたが、その後は鳴かず飛ばず。現在は興信所で探偵のアルバイトで生計を立てている。「小説のための取材」とうそぶきながら、やることと言えば浮気の調査対象者から金をゆすり取るという、卑劣な真似ばかり。しかも、せしめた金は即日ギャンブルでスってしまう。

 妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ離婚。だが、まだ響子に未練がある良多は、月1回、息子の真悟との面会で彼女と会うのが楽しみで仕方ない。そんな元家族の3人が、たまたま淑子の家で一晩ともに過ごすことになるのだが――。

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 ダメ男の良多。ダメ男を捨てた元妻の響子。息子のダメぶりにため息をつきながらも、決して見捨てようとしない母の淑子。そんな淑子になついている息子の真悟。台風の夜、各人がそれぞれの思いを吐露していく。「幸せは何かをあきらめないと手にできない」と語る淑子。「こんなはずじゃなかった」と呟く良多。「またみんなで暮らせるかな」と問いかける真悟。果たして家族は再生できるのか――。

 是枝裕和監督の過去作品と同様、“ままならぬ人生”をどう受け止め、どう生きるかという問題を提起している。

 響子も淑子も、かなえられなかった夢に執着することなく、目の前の現実を見つめ、新しい人生を歩もうとしている。それに対し、良多は自分の夢にこだわり、地に足のついた生き方ができない。たくましく現実的な2人の女性と比べると、まるで甘えん坊の子供だ。実際いい年をして、母親の金をあてにして生きている。そんな良多が、台風の一夜を経て、どう変わるのか、変わらないのか。深い余韻を残すラストが素晴らしい。

(文・沢宮亘理)

「海よりもまだ深く」(2016年、日本)

監督:是枝裕和
出演:阿部寛、樹木希林、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー

2016年5月21日(土)、丸の内ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/umiyorimo/

作品写真:(c) 2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

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2016年05月19日

「ディストラクション・ベイビーズ」狂気の柳楽優弥、街に放たれ大暴れ 松山舞台の青春群像劇

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 愛媛県松山市を舞台に若者の欲望と狂気を描いた青春群像劇「ディストラクション・ベイビーズ」。「イエローキッド」、「NINIFUNI」の真利子哲也監督初の商業作品となる。

 松山西部の港町・三津浜。海沿いのプレハブ小屋に芦原泰良(柳楽優弥)と将太(村上虹郎)の兄弟は暮らしている。日々けんかに明け暮れる泰良は、育ての親(でんでん)の忠告を聞かず、ある日ぷっつり姿を消す。

 しばらく後、松山の中心街。失踪した時と同じ作業服姿の泰良が姿を現した。ギターを抱えた長身の男を見つけた泰良は、後を追い突然殴りかかる。その場では反撃されて打ちのめされたものの、泰良は男を追いかけライブハウスに乱入。男と従業員を殴って立ち去る。

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 街で学生やヤクザを見つけてはけんかを吹っかけ、ボロ雑巾のように殴り殴られるが、翌日にはまた現れて「獲物」を物色する泰良。そんな姿を興味津々で見るのが高校生の裕也(菅田将暉)だった。ゲームセンターで泰良に襲われ、服まで奪われたにもかかわらず、強烈な狂気に引きつけられ行動をともにするようになる。一方、兄の目撃情報をつかんだ将太は、仲間とともに行方を追う。

 気の小さい裕也は泰良と一緒なって調子に乗り、商店街で無差別に通行人に襲いかかる。事件はネットで拡散され、警察とマスコミを巻き込む大騒動に発展。さらにテンションが上がった裕也は車を強奪。乗っていたキャバクラ嬢の那奈(小松菜奈)を誘拐し、事態はあらぬ方向へ動き出す──。

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 泰良を演じた柳楽がいい。せりふはほとんどなく、「楽しければええけん」と、殴り合いに明け暮れる青年。久々の当たり役だ。泰良を崇拝し、暴力に傾倒する菅田のはじけた演技がキーになる。饒舌な裕也が寡黙な泰良を引き立て、得体の知れない負のオーラに包まれた柳楽が、異様なまでの貫禄を見せる。

 生温かい時代の空気を読み取った真利子監督は、うっぷんを晴らすように泰良を平和な街に解き放ち、人々を狂乱のるつぼに陥れる。あえて人物像を掘り下げず、未知なる怪物のような凄みを与えた演出がうまい。限界を超えて挑発的な作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ディストラクション・ベイビーズ」(2016年、日本)

監督:真利子哲也
出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮

2016年5月21日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://distraction-babies.com/

作品写真:(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

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