2016年04月25日

「イタリア映画祭2016」最新作12本を一挙紹介 大ヒットコメディーからビスコンティ旧作まで

処女の誓い.jpg オレはどこへ行く?.jpg

 イタリア映画の新作を一挙紹介する「イタリア映画祭2016」が2016年4月29日〜5月8日、東京と大阪で開催される。今年は新作12本(大阪は7本)のほか、ルキノ・ビスコンティ監督の生誕110年を記念して「若者のすべて」(60)、1月に亡くなったエットレ・スコーラ監督「特別な一日」(77)も特別上映される。

 イタリア映画祭は01年にスタートして16回目。毎年ゴールデン・ウィークの恒例イベントとして定着した。今年は昨年以降に製作された新作がそろった。

 ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作「処女の誓い」は、アルバニアの山村が舞台。男尊女卑の村に生まれた少女が、男として生きることを誓い、やがてイタリアへ旅立つ物語。女性監督ラウラ・ビスプリのデビュー作。

 イタリアで映画興行収入記録を塗り替えたコメディー「オレはどこへ行く?」は、解雇を言い渡された公務員が主人公。主演のケッコ・ザローネは出演作が軒並みヒットする当代きっての人気俳優。今回の映画祭に来日を予定している。

待つ女たち.jpg 素晴らしきボッカッチョ.jpg

 仏ベテラン女優ジュリエット・ビノシュ主演の「待つ女たち」は、ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された。女性二人の関係性、心理の変化を細やかな演出で浮かび上がらせる。ピエロ・メッシーナ監督のデビュー作。

 「皆はこう呼んだ『鋼鉄ジーグ』」は、日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」の熱狂的女性ファンが、超人的な力を得た男を支える物語。ローマ国際映画祭では「独自性あふれる娯楽作」と喝采を浴びた。

 イタリアを代表する巨匠タビアーニ兄弟の新作「素晴らしきボッカッチョ」は、文豪ボッカッチョの名作「デカメロン」の翻案。原作で語られる100の物語のうち、愛についての五つの話が順繰りに披露される。

 ローマの裏社会を描く「暗黒街」は、骨太な王道ギャング映画。金、権力、欲望渦巻くローマで、政治家や宗教関係者を巻き込む暴力の連鎖が展開する。

 期間中は「オレはどこへ行く?」主演のケッコ・ザローネ、「皆はこう呼んだ『鋼鉄ジーグ』」主演のクラウディオ・サンタマリアらゲスト9人が来日し、上映に合わせたトークセッションなどに参加する。サンタマリアは、日本で公開中のエルマンノ・オルミ監督最新作「緑はよみがえる」での舞台あいさつも予定されている。

 「イタリア映画祭2016」は4月29日(金・祝)〜5月5日(木・祝)に東京・有楽町ホール(千代田区有楽町2-5-1 マリオン11階)、5月7(土)〜8日(日)に大阪・ABCホール(大阪市福島区福島1-1-30)で開催。作品の詳細や上映スケジュールは公式サイトまで。

http://www.asahi.com/italia/2016/

(文・遠海安)

posted by 映画の森 at 12:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月22日

「山河ノスタルジア」ジャ・ジャンクー監督、チャオ・タオ会見「中国の急激な発展に翻弄される人々描いた」

「山河ノスタルジア」会見.jpg

 1999年、2014年、2025年という3つの時代を背景に、一人の女性の半生を描いた中国映画「山河ノスタルジア」。ジャ・ジャンクーと主演女優のチャオ・タオがこのほど来日し、東京都内で記者会見した。ジャ監督は「中国社会の急激な発展に翻弄される人々の姿を描いた」と語った。

社会の激変に翻弄される人々

 暴力的な表現が目立った前作「罪の手ざわり」と比べると、かなり穏やかな印象を与える「山河ノスタルジア」。だが、ジャ監督は「中国社会の急激な発展に翻弄される人々の姿を描いた点は共通している」という。

 「たとえば99年にジンシェン(チャン・イー)と結婚したタオ(チャオ・タオ)は、2014年には離婚していて、息子の親権はジンシェンに渡してしまっている。裕福なジンシェンと暮らしたほうが、息子はよい人生を歩めると考えたからだが、このタオの判断には、中国社会の価値観が大きく影響している」

 タオとしては、よかれと思っての選択だったろう。だが、それによって彼女は大切なものを失ってしまう。

 「僕自身も社会の影響を受け、大事な人と過ごす時間を削るなど、人間的な感情をないがしろにしてきたという思いがある。この映画では、26年という長い時間の中で、タオが自分本来の姿から遠ざかっていく。多くのものを手に入れるが、その代償として感情を失っていく。そのプロセスを映画にしたかった」

sanga_main.jpg

26年間を一人で演じるチャレンジ

 そんなジャ監督の意を受けて、ヒロイン役を演じたチャオ・タオ。「プラットホーム」(00)以来、ジャ監督の全作品に出演してきたが、25歳から50歳まで3つの年齢を演じ分けるのは初めて。大きなチャレンジだったが、2つの経験が演技上の助けとなった。

 「00年に『プラットホーム』で若者の一人を演じた。13年にはイタリアのアンドレア・セグレ監督作品『ある海辺の詩人 小さなヴェニスで』で、母親役を演じた。この2つの役柄を経験していたことが、タオを演じるうえで大きな参考になった。興奮しやすく喜びをストレートに表現する若き日のタオと、情感豊かだが身体的には若さが失われていく中年期のタオ。情感と身体をそっくり入れ替えるような演技を目指しました」

 脚本にはタオの人生がすべて書かれているわけではない。空白部分は想像で補ったという。

 「撮影前に、タオがどんな人生を歩んできたかという、彼女の伝記のようなものを書いてみた。それによってタオが自分の中で熟成し、撮影現場に入ったときには、私の中にタオという女性が出来上がっていました」

sanga_sub1.jpg

時代を象徴する音楽、記憶と結びついた風景

 冒頭ディスコのシーンで流れるのは、ペット・ショップ・ボーイズのヒット曲「Go West」。ジャ監督は99年という時代を象徴するものとして選んだという。

 「99年は、中国にとって2回目の大きな経済改革がスタートした年。その年、若者は何をしていたかと考え、最初に頭に浮かんだのがディスコだった。中国でディスコが流行り始めたのは、90年代の半ばぐらい。後半になると、大都市から小さな町へも波及していった。僕もよく通っていたが、当時とても人気のあったのが「Go West」。あの時代の若者の気持ちを反映した曲だった。“前進していこうよ、きっと何かが変えられるよ”。そんな内容の詞だったと思う」

 音楽とともに重要な役割を果たしているのが風景だ。99年のパートでは山西省・汾陽(フェンヤン)の風景、そして25年のパートでは息子が夫とともに移住したオーストラリアの風景が映し出される。2つの風景には明らかな違いがある。

 「風景は人間の記憶と結びついている。たとえば、僕は黄河の風景を見ると、大学時代に黄河のほとりで花火をした記憶が蘇る。99年の背景となっているのは、まさにそういう風景。登場人物たちが生まれ育ち、愛情を育んだ記憶が染みついている。人間と風景との関係は濃密だ。一方、25年のオーストラリアは、仮住まいのような、よそよそしい風景。故郷から隔絶した場所で、人間との関係も希薄だ」

父の死によって、家族の一員と改めて意識

 14年のパートでタオは父親を亡くすが、ジャ監督も06年に父親と死別している。

 「父が生きていた時は、家族のことなど気にとめなかった。しかし、父が死んで、自分は家族の一員だということを改めて意識させられた。実家から帰るときのことだった。母が家の鍵を手渡してくれた。僕が実家の鍵を持っていないことを、母は知っていたのだ。これはつらかった」

 タオと同様に、若い時は気づかなかった家族の有り難さ、人間的な感情の大切さを噛みしめるジャ監督。

 「人生はある年齢に達しないと分からないこともある。しかし、映画ではその年齢にならなくても、それを体験できる。だから若い人にもぜひこの映画を見てもらいたい」

(文・沢宮亘理)

「山河ノスタルジア」(2015年、中国・日本・フランス)

監督:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャン、

2016年4月23日(土)、Bunkamuraル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/sanga/

作品写真:(c)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
posted by 映画の森 at 12:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月17日

「オマールの壁」パレスチナの分断、踏みにじられる信頼と友情

omar_main.jpg

 パレスチナ自治区を縦横に横切る壁。イスラエル兵の監視をすり抜け、青年オマール(アダム・バクリ)は高さ8メートルの壁をよじ登り、向こう側に住む友人に会いに行く──。ハニ・アブ・アサド監督の新作「オマールの壁」は、壁で分断されるパレスチナの若者たちの友情、裏切り、葛藤を描く。

 ヨルダン川西岸地区に住むオマールは、パン屋で働いている。幼なじみのタレク(エヤド・ホーラーニ)、アムジャド(サメール・ビシャラット)に会うため、命がけで壁をよじ登る日々。タレクの妹ナディア(リーム・リューバニ)と交際し、結婚を夢見ていた。

omar_sub1.jpg

 自由を求めるオマールたちは、武装組織から銃を手に入れ、イスラエル軍を襲撃する。しかし、イスラエル秘密警察はオマールを逮捕。「恋人も地獄行きになる」と脅しをかける。スパイになるよう強要されたオマールは、承諾したふりをして釈放される。反撃を狙う3人だったが、秘密警察はさらに上を行く「情報戦」を仕掛けてくる。

 パレスチナの壁と分断、イスラエルによる支配。浮かび上がるのは、人間の尊厳、友情、希望を踏みにじる占領政策の狡猾さだ。秘密警察はオマールたちの個人情報を把握し、時にアメをちらつかせながら、仲間同士を対立させる。暴力と情報操作でじわじわと精神と肉体を支配し、骨抜きにする。

omar_sub2.jpg

 監督は言う。「作品の主題は信頼だ。人間関係でいかに信頼が重要で、かつ不安定なものか。信頼は愛と友情のかなめ。非常に強いものだが、もろくもあり、幻覚のようでもある」

 壁で分断され、傷つけられた若者たち。自分を取り戻すため、オマールが最後に選んだ手段に、胸ふさがれる。

(文・遠海安)

「オマールの壁」(2013年、パレスチナ)

監督:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニ

2016年4月16日(土)、角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/omar/
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 11:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | パレスチナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月13日

「ハロルドが笑う その日まで」憎きイケア打倒へ 不器用な家具店主の復讐劇

hl_main.jpg

 青と黄色の「IKEA(イケア)」の文字。スウェーデン大手家具チェーンの巨大なロゴを、老いた男が見つめている。「イケアにすべてを奪われた」。追い詰められた男の不器用な復讐が始まった──。

 ノルウェー南西部の町、オサネ。小さな家具店を営むハロルド・ルンデ(ビョルン・スンクェスト)は、昔気質の家具職人だ。妻マルニィ(グレテ・セリウス)と静かに暮らしていたが、ある日を境に生活は急変した。

 イケアが町にやって来たのだ。なんと「北欧最大店舗」をハロルドの店のすぐ隣にオープン。ハロルドは店を閉めざるを得なくなり、ショックからか記憶が不安定になった妻は、やがて息を引き取ってしまう。

 愛する人も生き甲斐も失ったハロルドは、人気のない夜の店舗で灯油をまき、火をつけた。燃えさかる炎越しに見えるイケアの黄色いロゴ。次の瞬間、ハロルドはすべてを奪った男を思い出す。イケアの創業者、イングヴァル・カンプラード(ビヨルン・グラナート)を。

hl_sub.jpg

 「カンプラードを誘拐する」。唐突に思いついたハロルドは、疎遠だった一人息子のヤン(ヴィダル・マグヌッセン)の家を訪れる。地下室からピストルを持ち出し、一路隣国のスウェーデンへ。

 スウェーデンに入り、孤独な少女エバ(ファンニ・ケッテル)に出会ったハロルド。エバは突飛な誘拐計画にそそられ参加を申し出る。ところが、エバと母親の間にごたごたが発生。ハロルドも巻き込まれ、計画は一向に進まない。

 なんとも心もとない「誘拐犯の卵」二人は、雪の降りしきる晩、通りで老人に助けを求められる。車の故障らしい。手を貸した後に顔を見ると、老人は二人が追うカンプラードその人だった──。 

 遠く地球の反対側から、日本にも進出しているイケア。シンプルなデザインや安さにひかれて買った人も多いだろう。世界展開する経営手法は、大量生産、薄利多売の典型だ。一方、ハロルドが作る家具は正反対。値段は高いが一つ一つ丁寧に作られている。

 そもそも人はどう家具を選ぶのか。機能性、デザイン、価格。理由はさまざまだ。「ハロルドが笑う その日まで」は、ハロルドとカンプラードを対比させて描くが、どちらが善でどちらが悪か、決めるつけるのは難しい。

 その証拠に、ハロルドはカンプラードと話すうち、自分との共通点すら感じるのだ。正反対の生き方、製品のはずなのに──そんな人生の皮肉が、絶妙なユーモアやジョークとともに語られる。ハロルドがノルウェーから“敵地”スウェーデンへ向かう時、乗っているのはスウェーデン車のサーブである。思わずにやりとしてしまう。

 職人としては器用だが、人生を不器用に過ごしてきたハロルド。復讐の旅が終わるころ、その不器用さに癒され、観た人はきっと明日が楽しみになっているに違いない。

(文・魚躬圭裕)

「ハロルドが笑う その日まで」(2014年、ノルウェー)

監督:グンナル・ヴィケネ
出演:ビョルン・スンクェスト、ファンニ・ケッテル、ビヨルン・グラナート、グレテ・セリウス、ヴィダル・マグヌッセン、ヴェスレモイ・モークリッド

2016年4月16日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://harold.jp/

作品写真:(C) 2014 MER FILM AS ALL rights reserved

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 18:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | ノルウェー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月10日

「ルーム」監禁された母子 脱出と再生の物語

room_main.jpg

 閉ざされた部屋で暮らす母親のジョイ(ブリー・ラーソン)と息子のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。体操して、テレビを見て、ケーキを焼く。部屋の中だけが2人の世界だった。

 小さな部屋は簡素だ。ベッドと洋服ダンス、キッチンと洗面台。バスタブはむき出しで置かれ、天井に小さな天窓があるだけ。ジャックはこの部屋で生まれ育った。ベッドで母と一緒に目覚め、部屋にあるもの一つ一つにあいさつ。2人だけで1日を過ごす。

 夜。ジャックはタンスに入れられる。重い足音とともに男が部屋に入ってくる。男は母に親しげに声をかけ、差し入れを手渡す。男の名前はオールド・ニック。母は男とベッドに入り、ジャックの孤独な時間が過ぎていく──。

room_sub1.jpg

 前半は起承転結の「起」がばっさり削られている。ジャックから見た室内劇で、つつましく愛あふれる世界だ。ところが母親が語る真実で状況は一転。サスペンスフルな部屋からの脱出劇になり、後半は外界を舞台に犯罪被害者の再生が描かれる。現実世界に戸惑うジャック、望まぬ形で生まれた孫を受け入れられない祖父(ウィリアム・H・メイシー)の苦悩。社会復帰を目指す母にも試練が課される。

 拉致監禁事件を被害者側から見た作品は珍しく、米国の闇があぶり出された印象だ。母子は好奇の視線に苦しみながら、一歩ずつ前へ進んでいく。米アカデミー賞主演女優賞を獲得したラーソン、子役のトレンブレイが名演。視点の置き方で見え方が変わる演出、構成が見事だ。

(文・藤枝正稔)

「ルーム」(2015年、アイルランド・カナダ)

監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカムス

2016年4月8日(金)、TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/room/

作品写真:(c)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015
posted by 映画の森 at 12:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | アイルランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする