2016年01月29日

「ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る」反捕鯨の裏に何があった 驚きの事実

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 2009年、日本のイルカ漁をテーマとした米国のドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」が公開された。内容は一方的にイルカ漁を批判するもので、事実の改ざんや映像加工、編集による印象操作など、アンフェアな作り方が目立った。

 にもかかわらず、同作は米アカデミー賞を受賞。日本の捕鯨(イルカ漁・クジラ漁)に対する負のイメージは世界中に流布された。14年には、オーストラリアが国際司法裁判所に「日本は調査捕鯨を装い商業捕鯨を行っている」との訴えを起こし、日本は南極での捕鯨を停止させられた。

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 そんな状況に業を煮やしたのが、八木景子である。本作「ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る」の監督だ。子供の頃に給食に出た鯨の竜田揚げ。あの美味しさが忘れられない八木は、このままでは鯨食という日本の伝統的食文化が絶えてしまうという危機感から、自ら捕鯨問題の背景を探ることを決意する。

 「ザ・コーヴ」の舞台となった和歌山県・太地町に赴いた八木は、元捕鯨師や町長、そして反捕鯨活動家らにインタビューを敢行。「ザ・コーヴ」の監督ルイ・シホヨスや、主演のリック・オバリにも話を聞き、反捕鯨運動を促したものは何だったのかを問いつめていく。

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 捕鯨国はほかにもあるのに、なぜ日本だけが標的とされたのか? なぜイルカやクジラだけが特別視されるのか? 「ザ・コーヴ」の捏造箇所に対し、なぜ日本側は反論しなかったのか? さまざまな疑問が解消されていく中で、議論は思いもかけぬ方向へ発展していく。

 20世紀初頭まで続いた鯨油目当ての米国による鯨の乱獲。アングロサクソンの多民族侵略。第二次世界大戦……。科学者やジャーナリストなど、取材対象が広がるにつれ、捕鯨が文化の衝突という単純な問題に還元できるものではないことが分かってくる。そしてついに暴かれる衝撃の事実。「鯨の竜田揚げか懐かしい」。そんな思いから始まった探求の旅は、驚くべき陰謀の発見へとたどり着くのである。

 捕鯨論争は今後も続くだろう。しかし、捕鯨の是否を論じる前に、まずはこの映画を見て、反捕鯨の動きが、いつ、どのようにして始まったのかを知っておいたほうがよいのではないか。

(文・沢宮亘理)

「ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る」(2015年、日本)

監督:八木景子
出演:ルイ・シホヨス、リック・オバリ、森下丈二、諸貫秀樹、デヴィッド・ハンス

2016年1月30日(土)、K's cinemaほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://behindthecove.com/

作品写真:(C)2015 YAGI Film Inc
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2016年01月28日

「残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋」ミステリーとホラー融合 中村義洋監督、新ジャンル確立

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 小説家である私(竹内結子)のもとに、読者の女子大生・久保さん(橋本愛)から「部屋で奇妙な『音』がする」と手紙が届く。好奇心を抑えられず、調査を開始する私と久保さん。するとマンションの過去の住人が、引越先で自殺や心中、殺人などを起こしたと分かる。彼らはなぜ『音』のする部屋ではなく、別々の場所で不幸な末路をたどったのか。

 小野不由美の原作小説「残穢」を、「白ゆき姫殺人事件」(14)の中村義洋が監督した。

 賃貸住宅に住む者に、恐怖と戦りつを走らせるドラマだ。物語はユニークに展開する。最初は久保さんの部屋だけが問題と思われたが、調べるうちに奇妙な現象はマンション全体に飛び火する。次第に原因がマンションが立つ土地にあると分かる。

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 その土地にはマンションが建つ前、何代にも渡って事件が起きていた。持ち主の先代が暮らしたゴミ屋敷。奇妙な赤ん坊の泣き声に悩まされた先々代。青年が閉じ込められていた3代前。過去の出来事が明らかになる。

 ミステリー仕立てのドラマの随所に、ホラー風のショック演出が挿入される。中村監督は今でこそミステリー演出の名手として知られるが、原点は心霊投稿紹介ビデオシリーズ「ほんとにあった!呪いのビデオ」だった。今回も「音」から始まり時代を越える話を、絶妙にバランスよく描いている。

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 時代に合わせてダメージ加工された映像を使い、観客にいつごろの話か分からせる手法。最近のホラー映画と一味違った演出だ。ミステリーとホラーをミックスさせ、新しいジャンルを確立した作品だろう。

(文・藤枝正稔)

「残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋」(2015年、日本)

監督:中村義洋
出演:竹内結子、橋本愛、佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一

2016年1月30日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://zang-e.jp/

作品写真:(C)2016「残穢 住んではいけない部屋」製作委員会

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2016年01月27日

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」フリーマン&キートン、ベテラン二人のリラックス共演

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 画家の夫アレックス(モーガン・フリーマン)と元教師の妻ルース(ダイアン・キートン)は、米ニューヨークのブルックリンに住んでいる。5階建てアパート最上階の部屋は街を一望でき、日当たりも抜群。センスの良い家具に囲まれ申し分ない。愛犬ドロシーを交えた生活は順風満帆だ。しかし、結婚40年を超えた二人に、最上階までの階段はつらいものだった──。

 ベテラン俳優フリーマンとキートンが夫婦役で共演した「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」。ジル・シメント原作「眺めのいい部屋売ります」を、「リチャード三世」(95)のリチャード・ロンクレインが監督した。

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 老夫婦の引っ越し、愛犬の病気、思わぬテロ事件が、ブルックリンを舞台に描かれる。米国でのアパート売却の手続きは、日本と少々異なる。売り主は家に住んだ状態で内覧会を開き、見に来た客がオークションのように入札。売買が成立する。米国ならではの不動産売買の模様が軽妙に描かれる。

 一つ残念なのは、フリーマンとキートンを起用するため、原作と違い人種の異なる夫婦に設定したにもかかわらず、その点について踏み込んでいないことだ。1970年代に人種差別を乗り越え結婚し、今まで歩んできた二人のきずな。より深く描くこともできたはずだ。もう一歩踏み込んでほしかった。

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 ブルックリンを歩く二人。キートンの代表作、ウディ・アレン監督の「アニー・ホール」(77)に重なり感慨深い。80年代ラブコメディーの懐かしさもあり、温かみを感じさせる。フリーマンとキートンのリラックスした演技が楽しめる佳作だ。

(文・藤枝正稔)

「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(2014年、米国)

監督:リチャード・ロンクレイン
出演:モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン、シンシア・ニクソン、クレア・バン・ダー・ブーム、コーリー・ジャクソン

2016年1月30日(土)、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.nagamenoiiheya.net/

作品写真:(C)2014 Life Itself, LLC ALL Rights Reserved
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2016年01月22日

「ラブストーリーズ2」気軽に楽しめる恋愛シリーズ3本 全盛期のVシネマ彷彿

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14年に公開された恋愛映画シリーズ「ラブストーリーズ」。第2弾「ラブストーリーズ2」の6作品のうち前半3作品が公開される。

「再会 禁じられた大人の恋」監督:成田裕介

 平凡な結婚生活を送っている主婦・由美子(熊切あさ美)。近くに引っ越してきたのは、かつて愛し合いながら別れを余儀なくされた恋人・浩司(大口兼悟)とその妻だった──。

 私生活でも恋愛が話題になった熊切主演。本人のイメージを逆手に取ったような話だ。家の向かいに元恋人が越してくる強引な設定。熊切の固くぎこちない演技が気になるが、大胆な濡れ場にもチャレンジしている。

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「別れた女房の恋人」監督:金田敬

 離婚しておむすび屋を営んでいる尚美(丸純子)。客の若者・草太(塩澤英真)の気のあるそぶりに年甲斐もなく恥じらう。そんな時、尚美は離婚した元夫・真人(春田純一)と偶然再会する──。

 40代の主人公をめぐり若い男と元夫が恋愛バトルを繰り広げる。二人の男の間で揺れ動く女心と、嫉妬心を燃やす元夫がややコミカルに描かれる。元夫婦役の丸純子と春田純一が好演。

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「ゆれる心」監督・脚本:片岡修二

 商社に勤める美咲(瀬戸早妃)は何ごとも割り切れない性格。あきらめが悪いと思われても負けず嫌いで引かない。ある日職場の先輩・倫子(矢吹春奈)に「結婚式の発起人になってほしい」と頼まれる──。

 先輩の結婚式発起人と新婦の父の説得。応援に行ったうどん店・店長との恋愛。店舗物件家主との交渉。恋に仕事にプライベートまで、力み過ぎて空回り気味な美咲の不器用な恋愛劇。欲張りすぎが原因で失敗しても、めげない美咲役の瀬戸がいい。

 いずれも主演女優のからみがクライマックスに用意された3本。熊切と瀬戸はセミヌード止まりだが、「別れた女房の恋人」の丸が堂々たるヌードを披露している。上映時間は90分以下、ちょっぴりエッチな描写を交える手法は、全盛期のVシネマを感じさせる。気軽に楽しめる恋愛シリーズだ。

(文・藤枝正稔)

2016年1月23日(土)、東京・ユーロスペースほかで2週間限定レイトショー。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.lovestories.jp/

作品写真:(C) レジェンド・ピクチャーズ

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2016年01月20日

「サウルの息子」ユダヤ人強制収容所 同胞の死体を処理する男が見た狂気

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 1944年10月、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所。サウルはハンガリー系ユダヤ人で、死体処理に従事していた。ある日、サウルはガス室で生き残った息子らしき少年を発見。少年は目の前ですぐ殺されてしまうが、サウルはユダヤ教の聖職者を探し出し、教義にのっとって埋葬するために収容所内を奔走する──。

 「サウルの息子」は無名の新人監督ネメシュ・ラースローのデビュー作にして、第68回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した作品だ。同胞の死体を処理するユダヤ人の特殊部隊「ゾンダーコマンド」として働くサウルの目で、ナチスの残虐行為をあぶり出す。

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 冒頭からサウルの視点、行動、背後からとらえたカメラで、強制収容所での2日間がつづられる。ナチスの軍医が労働力にならないユダヤ人を選別する。彼らをガス室へ連れて行き、死体処理から後始末までこなす。

 同胞に「シャワーを浴びさせる」とうそを言って安心させ、服を脱がせてガス室に入れる。間もなく中から叫び声や壁を叩く音が漏れてくる。「処理」が終わった後、コマンドたちは中の血や汚物を掃除し、死体の山を焼却炉に運ぶ。

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 生きるために感情を殺し、非人道的な行為に加担するサウル。しかし、自分の息子の死体を埋葬するため、ナチスの目をかいくぐり、危険な行動を起こす。絶望の中、親としての自尊心を保とうとしているかのようだ。

 観客はサウルが見た狂気を画面を通して追体験する。自分の手を汚さず、残虐行為を強制するナチス。あまりに生々しく、凄惨で息苦しくなる。観客を突き放す幕引きを含め、負の歴史に個人の視点で踏み込んだ衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「サウルの息子」(2015年、ハンガリー)

監督:ネメシュ・ラースロー
出演:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レべンテ、ユルス・レチン、トッド・シャルモン、ジョーテール・シャーンドル

2016年1月23日(土)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.finefilms.co.jp/saul/

作品写真:(C)2015 Laokoon Filmgroup

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