2015年12月24日

「神様なんかくそくらえ」マンハッタンの路上にのたうつ 狂おしく刹那的青春

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 米ニューヨーク。19歳の少女ハーリー(アリエル・ホームズ)は、マンハッタンの路上で毎日を過ごしていた。彼女にとって、ホームレス仲間で恋人のイリヤ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)だけが生きる理由だった──。

 ハーリーを演じたホームズ自身の3年にわたる路上体験を映画化した「神様なんかくそくらえ」。2014年、第27回東京国際映画祭コンペティション部門で最高賞の東京グランプリ、最優秀監督賞を受賞した。 

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 ハーリーたちホームレスの若者の毎日は、刹那的で無秩序だ。図書館やファイトフード店を根城に、希望もなく暮らしている。イリヤにおぼれるハーリーは「愛の証拠を見せろ」と言われ、手首を切って精神科病院送りになる。

 狂っているようにも見えるハーリーの精神状態と、イリヤへのゆがんだ愛情。エキセントリックで自分勝手なイリヤに、ハーリーは奴隷のようにかしづく。現実逃避から悪循環にはまり、仲間の忠告も耳に入らない。万引き、薬物売買、物乞いと手段を選ばず生きる糧を得るハーリー。一方でイリヤはついに薬物中毒になる。

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 サフディ兄弟監督は、ロングショットとクローズアップを多用し、ドキュメンタリー風に描いていく。ニューヨークという小宇宙に放り込まれた、ハーリーの危うい精神バランス。日本の冨田勲、アリエル・ピンク、ヘッドハンターズ、タンジェリン・ドリームらの楽曲を使用。無機質ながら温かく、浮遊感と刹那的な空気を生み出した。

 ホームズの演技は現実との境が分からぬほどリアル。イリヤ役のジョーンズ(「X-MEN:ファースト・ジェレーレーション」)も好演。甘さが皆無の狂おしい愛と、商業映画が取り上げない貧困層の現実。時代を鮮烈に切り取った衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「神様なんかくそくらえ」(2014年、米・仏)

監督:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ
出演:アリエル・ホームズ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、バディ・デュレス、ロン・ブラウンスタイン

2015年12月26日(土)、新宿シネマカリテほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://heaven-knows-what.com/

作品写真:(c) 2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.

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2015年12月21日

第16回東京フィルメックス ピエール・エテックス特集 斬新な笑いのセンス、日本に初紹介

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 11月に開催された第16回東京フィルメックスで、フランスの映画監督ピエール・エテックスの特集が組まれ、「ヨーヨー」(65)と「大恋愛」(69)の2本が日本初上映された。

 「ヨーヨー」は、エテックスが少年期に夢中となったサーカスへの愛が全編にあふれる作品だ。1965年のカンヌ国際映画祭に出品され、ジャン=リュック・ゴダールらが絶賛。2007年の同映画祭ではデジタル修復版が公開され、改めてエテックスの才能に注目が集まった。

 主人公は大豪邸に何十人もの召使を抱え、何不自由ない暮らしを送る男。だが大恐慌で全財産を失い、かつて恋人だった女曲芸師のもとへ戻ることに。幼い息子のヨーヨーと3人、サーカス団での巡業生活が始まる。男も元々は曲芸師だったらしい。やがてヨーヨーは大人に成長、サーカス団の花形に。巨万の富を築いたヨーヨーは、父親が手放した屋敷を買い戻すのだが――。

 大豪邸での贅沢ざんまいの生活を描いた序盤から、大恐慌、戦争、テレビの台頭と、時代が激変する中で、新たに主人公となったヨーヨーが頭角を現していく中盤。そして代替わりした大豪邸でのクライマックスへ。サイレント映画ふうに演出した序盤と、最後の壮大なパーティの場面には、独創的なギャグの数々が散りばめられ、エテックスが卓越したコメディー作家であることが分かる。

 しかし一方、男が豪邸で別れた恋人の写真を眺め思いにふける場面や、解雇された召使たちが丘の上の屋敷から長い坂道を下っていく場面、またヨーヨーが恋人と別れる場面などには、憂愁の影が漂う。笑わせるだけでなく、人生の意味をシリアスに省察した作品でもある。

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 「大恋愛」もまた、第一級のコメディーでありつつ、「結婚とは何?人生とは何?」という大問題に迫る作品だ。結婚10年目を迎えた夫婦。表面上は平穏な日々を送っているが、夫の心に浮気の虫がうずき出す。会社の美人秘書に対し、妄想の翼を広げるのだが――。

 ビリー・ワイルダー監督の名作「七年目の浮気」(55)を思わせる設定である。主人公が妄想の世界に入るとき、ワイルダーは画面上で妄想開始の合図をしていた。だがエテックスの場合、主人公は何の前触れもなく、妄想の世界に入って行く。妻が義母に似てきたと思えば、その瞬間、妻は義母の姿に変わってしまうのだ。

 妄想と現実の境目がないシュールな映像。最たるものが、走るベッドの場面だ。秘書との妄想にふけりながら眠りに就いた主人公。いきなりベッドが動き出し、玄関から外へ出ると、そのまま路上を走行していく。道中、主人公と同じくベッドに乗った人々が、それぞれ苦難に直面している。故障したベッドの下に潜って修理する人。事故に遭って立ち往生している人。途中で主人公は秘書を拾い、隣に座らせる。彼女の肩に手を回し、ベッドを走らせ、やがて自宅に戻る。穏やかな笑みを浮かべながら眠る主人公。もちろん隣に秘書の姿はない。

 妄想は妄想のまま、主人公は現実に戻り、平和な夫婦生活は継続されることになったが――。夫婦の形勢が逆転するラストの締め方が鮮やかだ。

 エテックスはフランス風刺喜劇の名手、ジャック・タチ監督の「ぼくの伯父さん」(58)で助監督や俳優を務めたほか、タチ作品の一連のポスターを手がけるなど、タチとは縁が深い。作品にもその影響が見られるが、タチほどのメッセージ性はなく、ギャグの斬新さが身上だ。若い頃に道化師として働いた経験がスタイルを決定づけたのだろう。

 ジェリー・ルイス、ウディ・アレンをはじめ、多くの映画人からもリスペクトされているエテックス。しかし、これまで日本で作品が上映されることはなかった。今回、東京フィルメックスで代表作2本が紹介されたのを契機にエテックス作品が知られ、さらに大きなスポットがあてられることを期待する。

(文・沢宮亘理)

「ヨーヨー」(1965年、フランス)

監督:ピエール・エテックス
出演:ピエール・エテックス、クローディーヌ・オージェ、リュース・クラン

「大恋愛」(1969年、フランス)

監督:ピエール・エテックス
出演:ピエール・エテックス、アニー・フラテリーニ、ニコール・カルファン

作品写真:(c)2010 Fondations Technicolor-Groupama Gan-Studio 37

タグ:レビュー
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2015年12月20日

「ディーン、君がいた瞬間(とき)」夭折の青春スター、つかの間の旅と友情

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 1955年、米国。野心家の若手カメラマン、デニス・ストック(ロバート・パティンソン)は、新人俳優ジェームズ・ディーン(デイン・デハーン)と出会う。一目見てディーンがスターになると確信し、有名誌「LIFE」で紹介するため密着取材を持ちかける──。

 「エデンの東」(55)、「理由なき反抗」(同)、「ジャイアンツ」(56)と主演作品3本を残し、交通事故で急逝した伝説の青春スター、ディーン。没後60年に合わせて作られた「ディーン、君がいた瞬間(とき)」は死の直前、ストックと過ごした2週間の旅と友情を描く。

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 「エデンの東」完成直後、「理由なき反抗」の前。監督主催のパーティーで二人は出会う。たちまち意気投合し、ディーンは「エデンの東」の試写にストックを誘う。スクリーンに映るディーンの輝きに、ストックは驚愕。所属する写真家集団「マグナム・フォト」の上司に連絡し、密着フォトエッセイを計画する。

 被写体と写真家として出会った二人は、ロサンゼルスからニューヨーク、ストックの故郷インディアナへ旅する。濃密な時間をともに過ごし、友情が育まれていく。

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 自身も写真家であるアントン・コービン監督は、ストックと同じ視点でディーンを見つめる。保守的だった50年代、枠にはまらない若きカリスマ俳優は、苦悩と葛藤を抱えていた。映画の中の姿と異なり、繊細で傷つきやすい青年だった。一方でカメラは、ストックの別れた妻子、ディーンとの対立も掘り下げていく。

 雨のブロードウェイを、黒いコートのディーンが煙草をくわえ、肩をすぼめて歩いている。よく知られる写真は、ストックが撮ったものだった。同じカットを再現したシーンは、ファンにはたまらないだろう。 話し方から外見まで似せたデハーン、ストック役のパティンソンも好演だ。

(文・藤枝正稔)

「ディーン、君がいた瞬間(とき)」(2015年、米国)

監督:アントン・コービン
出演:デイン・デハーン、ロバート・パティンソン、ジョエル・エドガートン、ベン・キングズレー、アレッサンドラ・マストロナルディ

2015年12月19日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://dean.gaga.ne.jp/

作品写真:Photo Credit: Caitlin Cronenberg,(C)See-Saw Films

タグ:レビュー
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2015年12月18日

「リザとキツネと恋する死者たち」ハンガリー発日本びいきなヘンテコ喜劇 “トミー谷”が昭和歌謡を歌い踊る!

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 1970年代のハンガリー、ブタペスト。元日本大使未亡人宅に住み込みで働くリザ(モーニカ・バルシャイ)は、リザにしか見えない幽霊日本人歌手・トミー谷(デビッド・サクライ)の歌に日々元気付けられていた。恋愛小説のように甘い恋にあこがれたリザは、30歳の誕生日に許可を得て2時間だけ外出する。ところが、リザが出ている間に未亡人が殺されてしまう──。

 ハンガリー生まれのファンタジック・コメディー「リザとキツネと恋する死者たち」。へんてこ昭和歌謡と日本語が飛び交う、摩訶不思議な作品だ。日本びいきのウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督が旅先の那須で「九尾の狐」伝説を知り、触発されて書いたという。

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 トミー谷がグループサウンズ風昭和歌謡を日本語で歌い踊る。人が死ぬと画面にでかでかと出る「死者」の字は、深作欣二監督作品に影響されたという。日本に似た場所を探し出して那須に仕立てるなど、監督のこだわりが随所に表れる。

 リザの恋をめぐって次々不審な死が起きる。描き方がハリウッド作品とはひと味もふた味も違い、非常に個性的だ。フランスのジャン=ピエール・ジュネ(「アメリ」)のように、観客の視覚に訴えていく。必要とあらば大胆な特殊効果でインパクトを与える。瞬間的に観客を引き付けるCM出身の監督らしい技だろう。

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 さらに面白いのが音楽だ。監督が日本で買い集めた昭和歌謡のCD、動画サイトで見つけた日本の曲に着想を得て考えられたという。フランスのダニエル・リカーリ風にスキャットが印象的な甘いバラード。60年代のボサノバ、マカロニ・ウエスタン風など、センスのいい懐メロ的楽曲は、バラエティーに富んでいて飽きない。

 日本人にはやや苦笑してしまう箇所もあるが、日本好きなハンガリー人監督の和洋折衷世界は味わい深い。ブラックでシニカルな表現もあり、心を妙にくすぐる愛すべき作品だ。

(文・藤枝正稔)

「リザとキツネと恋する死者たち」(2014年、ハンガリー)

監督:ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ
出演:モーニカ・バルシャイ、デビッド・サクライ、サボルチ・ベデ・ファゼカシュゾルタン、ガーボル・レビツキ、ピロシュカ・モルナール

2015年12月19日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.liza-koi.com/

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2015年12月11日

「ハッピーアワー」女たちの人生の危機 “素人俳優”生々しく 濱口竜介監督最新作

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 あかり、桜子、芙美、純。女性4人が休日にピクニックを過ごすシーンから、映画は始まる。持ち寄ったランチを食べながら、近況を報告し合い「今度は泊まりがけで有馬温泉へ行こう」と盛り上がる。

 4人とも30代半ばぐらいか。看護師のあかりはバツイチで今は独身、ほかの3人は既婚者だ。職場や家族から解放される4人きりのひとときが、彼女たちにとってかけがえのない時間なのだろう。屈託なさげに談笑する4人。しかし、実はそれぞれ問題を抱えている。映画の進行につれて、それが何なのかが明らかになっていく。

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 4人が心の内に隠し持った小さな爆弾、大きな爆弾。どんな拍子に爆発するのか、しないのか。起爆スイッチとなるのは誰なのか。4人の人間関係に、さまざまな他人が介入し、接触することで、いよいよ彼女たちの心はざわつき、乱れ、爆発の危険にさらされていく。

 いかにも平凡な4人の女性たち。街ですれ違っても、目を奪われることはないだろう。それがストーリーの進展とともに、目の離せない特別な存在へと変貌していく。気がつくと、彼女たちの一挙一動に目が釘付けとなっている。

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 独特のスタイルを持った作品である。5時間を超える長尺だが、全体を構成するシーンの数は決して多くない。一つひとつのシーンが長いのだ。

 たとえば芙美が企画に関わるワークショップに4人が参加するシーン。講師の鵜飼の指導を受けて、一連のエクササイズを行うのだが、普通なら中略に中略を重ねて簡潔に編集するところを、カットなしに丸ごと見せている。同様に芙美が企画する朗読会のシーンでも、女性作家が自作を1篇読み上げるのを、最初から最後まで分断せずに収めている。

 にもかかわらず、冗長になるどころか、見る者をぐいぐい引き込んでいく。まるでその場に立ち会って、ワークショップや朗読会を、彼女たちとともに経験しているような気分にさせられる。5時間超の長さが少しも退屈に感じられないのだ。

 4人の女優は全員が素人で、濱口竜介監督が主宰した“即興演技ワークショップ”の参加者だという。プロの役者の演技とは次元の異なる、いかにも生々しい演技に圧倒される。第68回ロカルノ国際映画祭では、4人全員が最優秀女優賞に輝いた。

(文・沢宮亘理)

「ハッピーアワー」(2015年、日本)

監督:濱口竜介
出演:田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら

2015年12月12日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hh.fictive.jp/ja/

作品写真:(c)2015 神戸ワークショップシネマプロジェクト
タグ:レビュー
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