2015年11月30日

「グリーン・インフェルノ」食人族と現代人の対決、黒い笑いをまぶした悲劇

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 「ホステル」(05)の鬼才イーライ・ロス監督が、イタリアの怪作「食人族」(80)をモチーフに、人食いの恐怖を描いた「グリーン・インフェルノ」。アマゾンの奥地で食人族にとらわれた若者たちの格闘を描く。

 ペルーのジャングル。企業による森林破壊を糾弾するため、学生の環境保護グループが現地に乗り込む。インターネットを駆使し、企業の悪事を世界に発信するメンバー。しかし、帰路に乗ったセスナ機がジャングルの真ん中に墜落。そこで出会ったのは、人間を食べる「食人族」だった。

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 皮肉なことに、食人族=ヤハ族は、若者たちが森とともに救おうとしていた先住民族だった。食人族は目の前で人間を解体して食べ始める。携帯電話もGPSも奪われ、若者たちはなすすべもない。現代人の弱さがまざまざと映し出される。

 一方、ロス監督は若者のリーダーのアレハンドロ(アリエル・レビ)を利己主義者の悪者として描く。国連職員を父に持つ仲間のジャスティン(ロレンツァ・イッツォ)を利用し、告発相手の企業と裏取引を展開。食人族にとらわれた後も横暴な行いを繰り返し、仲間の足を引っ張る。これに対し、利用されていたジャスティンが絶体絶命の危機を乗り越え、生命力を発揮する。

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 最新技術で「食人映画」を蘇らせたロス監督。ブラックな視点にスプラッター描写を折り込み、起承転結をテンポよく描いた。若者たちの慈善活動、企業告発、食人族による恐怖。スリリングな悲劇に、黒い笑いをまぶした作品だ。

(文・藤枝正稔)

「グリーン・インフェルノ」(2013年、米・チリ)

監督:イーライ・ロス
出演:ロレンツァ・イッツォ、アリエル・レビ、ダリル・サバラ、カービー・ブリス・ブラントン、スカイ・フェレイラ

2015年11月28日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://green-inferno.jp/

作品写真:(C)2013 Worldview Entertainment Capital LLC & Dragonfly EntertainmentInc.

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2015年11月27日

「サクラメント 死の楽園」カルト教団に潜入取材、主観映像で恐怖あおる

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 実在のカルト教団「人民寺院」による集団自殺事件をモチーフにしたホラー映画「サクラメント 死の楽園」。妹から奇妙な手紙を受け取ったパトリック(ケンタッカー・オードリー)は、過激取材で知られるメディア・VICE社のジェイク(ジョー・スワンバーグ)、サム(AJ・ボーウェン)らと教団に潜入取材を試みる──。

 教祖ジム・ジョーンズ率いる「人民寺院」が1978年に起こした集団自殺事件。やはり実在の動画メディア・VICEのスタッフとともに、パトリックは妹を探して潜入する。全編VICEのカメラによる主観映像=P.O.V.(ポイント・オブ・ビュー)で撮影されている。

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 「人民寺院」のコミュニティー「エデン地区」。人里離れた森の中にあり、厳重な警戒態勢に守られ、簡単には近づけない場所だ。幸せそうに暮らす楽園の信者たちは、パトリックたちを歓迎する。みなが「豊かな生活ができるのは『ファーザー』のおかげ」と口をそろえる。一行はファーザーに会見を申し込み、取材はその夜のうちに実現する。しかし、楽園にはどこか不穏な空気が漂っていた。

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 主観映像で恐怖や驚きを増幅させる「P.O.V.」映画。量産されすぎて頭打ちの感があったが、また新たな作品が登場した。観客を未知のコミュニティーに放り込み、事件の目撃者に仕立てる手法だ。カルト集団の実態が目の前に次々表れる。教祖の言葉を盲信し、暴走する信者の集団心理。主観映像によってスリルとリアリティーを持たせることに成功した。

(文・藤枝正稔)

「サクラメント 死の楽園」(2013年、米国)

監督:タイ・ウェスト
出演:AJ・ボーウェン、ジョー・スワンバーグ、ケンタッカー・オードリー、エイミー・サイメッツ、ジーン・ジョーンズ

2015年11月28日(土)、角川シネマ新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://sacrament-death.jp/

作品写真:(C)2013 SLOW BURN PRODUCTIONS LLC

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2015年11月19日

「放射線を浴びたX年後2」第五福竜丸の悲劇から今へ 父はなぜ死んだのか 真相追う執念の記録

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 1954年3月1日、太平洋中部のビキニ環礁で、米国が核実験を行った。操業中のマグロ漁船「第五福竜丸」は、大量の放射性物質を浴び、半年後に無線長だった久保山愛吉氏が死亡。ほかの乗組員も重度の肝機能障害を起こした。

 誰もが知っている第五福竜丸の悲劇である。1959年に作られた新藤兼人監督の同名映画も見た人も多いだろう。怪獣映画「ゴジラ」(54)にインスピレーションを与えたことも有名だ。

 だが、放射線が降り注いだのは第五福竜丸だけではない。太平洋上での核実験は100回以上あった。当然ほかにも多数の漁船が被曝した。しかし政府の対応はおざなりで、メディアも深く追及しようとはしなかった。風評を恐れてか、漁師たちも声を潜めた。こうして真相は覆い隠された。

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 そんな歴史の闇に光を当てたのが、ローカルテレビ局のディレクター、伊東英朗だった。事実を探るべく、高知県の港町で地道な調査を続けていた教師や高校生たち。伊東は彼らの足跡を追い、ついに放射能汚染の全貌を記した機密文書へとたどり着く――。

 そのプロセスを記録した作品は、テレビのドキュメンタリー番組で放送され大きな反響を呼び、「放射線を浴びたX年後」(2012)として映画化。「放射線を浴びたX年後2」は続編である。

 今回スポットが当てられているのは、36歳で急逝した漁師の娘である川口美砂氏。幼い頃から父は「酒の飲み過ぎで早死にした」と言い聞かされていたが、「放射線を浴びたX年後」を見て、死因に疑念を抱く。父親もマグロ漁船に乗っていた。もしや……。川口氏は元乗組員や遺族たちと会い、一歩一歩真相に迫っていく。そして判明するおそるべき事実。

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 前作に登場した高校教師から、川口氏が「X年後」のバトンを引き継ぐ形となった。作品が人を覚醒させ、行動に駆り立てる――。ドキュメンタリー映画の一つの理想形をここに見る。

(文・沢宮亘理)

「放射線を浴びたX年後2」(2015年、日本)

監督:伊東英朗

2015年11月21日(土)、ポレポレ東中野ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://x311.info/part2/

作品写真:(C)南海放送
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2015年11月17日

第28回東京国際映画祭「百日草」トム・リン監督、主演のストーンに聞く 妻を亡くした経験を映画に「自分が立ち直るための儀式だった」

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 愛する者を失った時、人はどう痛みを乗り越えるか。台湾のトム・リン(林書宇)監督の新作「百日草(原題)」は、妻を亡くした監督自身の体験を元にした人間ドラマだ。「(映画の主人公と同じように)出口を求めてもがいていた」と話す監督。「この映画を撮ることは、自分が立ち直るための儀式だった」と振り返った。

 主人公は二人。同じ交通事故で妻を失ったユーウェイ(ストーン)と、婚約者を失ったミン(カリーナ・ラム=林嘉欣)。それぞれ心身ともに傷を負いながら、喪失感を埋めるため苦しみ、葛藤する過程が描かれる。

 第28回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門での上映に合わせ、このほど来日したリン監督、ストーンに話を聞いた。ストーンは台湾の人気バンド・メイデイ(五月天)のギタリストとして活躍。俳優業にも進出し、活動の幅を広げている。香港映画出身で実力派女優のラムは結婚、出産を経て5年ぶりの映画復帰作となった。

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 主なやり取りは次の通り。

 ──自身のつらい体験を脚本に書くことで、さらに痛みが増すことになりませんでしたか。

 監督:妻が亡くなった悲しみから立ち上がるには、ある儀式が必要でした。(劇中で)ユーウェイは(ピアノ教師だった妻の生徒に)レッスン代を返しに行きました。ミンは(新婚旅行を予定していた)沖縄に一人で出かけました。僕にとってはこの映画を撮ることが儀式にあたり、自分にとって必要な行為でした。

 ──役作りをする上で、監督とはどんなやり取りをしましたか。

 ストーン:クランクインの前にかなり時間をかけて監督と役について掘り下げ、脚本について討論しました。撮影に入る時点では、ユーウェイの性格、個性、関心、生活方式、亡くなった妻への気持ちを完全に理解していました。それをただ演技として表現するだけでした。

 監督はわざわざ2、3日時間を作り、僕と妻役の女優との普段の生活のシーンを撮ってくれました。夫婦の甘い雰囲気を感じ合った後、彼女がいなくなり、本当に妻を亡くしたような喪失感がありました。演じる上でとても役に立ちました。

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ストーン「演奏は道具を使う。演技は素手で触るような感じ」

 ──メイデイのギタリストとして、普段は音楽の世界で表現していますね。演技という表現との違い、難しさはありますか。

 ストーン:かなり違います。ギタリストとしては楽器を使い、歌や音符で表現する。常に道具を使っています。でも演技には道具がありません。自分自身の外見、表情を使いますね。たとえれば、医師がメスで手術をするのが音楽。演技は素手で患部に触るような感じです。自分がけがをする可能性もあり、非常に危険なこともあります。

 ──これまで特に演技の勉強をした経験はないそうですが、現場に入る時にどんな工夫や準備をしていますか。

 ストーン:役柄についてよく研究し、準備します。彼がどんなものが好きで、どんな背景で育ったか。人の個性は育った背景、環境、親などに大きく左右されると思うんです。それらをすべて考え、自分なりの方法で整理し、消化する。そういう手続きを必ずします。

 今回は監督がある方法で、僕に想像する空間を与えてくれました。監督は「ユーウェイはサイだ」と言ったんです。動物のサイですよ。外見から内面まで「なぜサイなんだろう」と考えました。実は僕自身、自分はメイデイの中でキリンだと思っているんです。(笑いながら)すごく穏やかでおとなしい。キリンは背が高いから上から見下ろせて、動作もゆったりしている。そういう存在になりたいし、自分はそうだと思っています。

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監督「ストーンにはものすごい爆発力を感じる」

 ──監督は「直感で俳優を選ぶ」そうですが、ストーンの俳優としての魅力はどこにありますか。

 監督:人生の中で豊かな力を持っている。目を見ると分かるんです。人間の中身がしっかりしている。それ以外は技術的なことなので、一緒に努力すれば克服できます。でも最初の(人間的な)部分が俳優にとっては大事。外見上は穏やかだけれど、ものすごい爆発力のある人だと思います。

 ──劇中のエピソードは監督自身の体験や調査結果から作られたのですか。

 監督:両方です。俳優が決まった段階で「彼らならどんなことが起こるだろう」と考え、出てきたエピソードもありました。一人になったミンは「果たして新婚旅行に行くだろうか」などと考えました。初七日に玄関先に塩をまいておくと、亡くなった人が戻ってきて足跡がつく。これは人から聞いた言い伝えです。

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 ──カリーナ・ラムさんの魅力について教えて下さい。

 ストーン:ずっと前から(女優としての)彼女を知っていたけれど、触れることもできない憧れの存在でした。今回初めてきちんと知り合い、とても親しみやすい人と分かりました。僕からみると「絹のような人」。こちらの反応を受け止める時に柔らかい。すーっと寄って来て、さあっと離れていくような感じです。彼女の反応は強烈ではなく、漂うように流れるように来る。でも彼女にそう言ったら「自分は活発だ」と反対すると思いますが。

 監督:自分の考えをしっかり持つ、本当に素晴らしい女優。出演を依頼したのはタイミングが良くも悪くもある時でした。良かったのは彼女が演技から5年遠ざかり「そろそろ女優の仕事に戻ろうか」と考えていたところだったこと。悪かったのは出演を決めた1カ月半後、実際に父上を亡くされたんです。彼女は「自分も死に向き合い、克服する過程が必要です」と言って出てくれました。

(聞き手・遠海安、写真・岩渕弘美)

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「百日草」(2015年、台湾)

監督:トム・リン(林書宇)
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、ストーン(シー・チンハン=石錦航)、柯佳[女燕]、馬志翔、張書豪

第28回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門出品、第17回台北映画祭2015クロージング作品。

作品写真:(C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
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「劇場霊」中田秀夫監督ホラー、原点回帰で健在ぶりアピール

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 若手女優の水樹沙羅(島崎遥香)は、女貴族の一生を描いた舞台「鮮血の叫び声」への出演が決まる。配役をめぐり女同士が激しく争う中、小道具の球体関節人形が劇場に持ち込まれ、周囲に異変が巻き起こる──。

 「クロユリ団地」(13)に続き、企画・秋元康と中田秀夫監督が再タッグを組んだ作品。中田監督の19年前のデビュー作「女優霊」(96)を思い出させるホラー映画だ。密室化した劇場内で、呪われた人形が悲劇を招いていく。

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 「球体関節人形」による恐怖のドラマが、女優同士のし烈な争いと並行して描かれる。アイドル女優の葵(高田里穂)が表と裏の顔を使い分けて主役をつかむ一方、沙羅は実直に役に挑みチャンスをつかむ。そんな二人を虎視眈々と見つめる香織(足立梨花)。彼女たちを手のひらの上で転がす演出家・錦野(小市慢太郎)の存在も興味深い。

 劇場スタッフの怪死、女優の転落死、追い詰められる沙羅たち。じわじわ外堀を埋めながら物語は進み、怒涛のクライマックスへ到達する。負の連鎖を断ち切るために立ち上がる沙羅の姿は、ヒット作「リング」(98)の主人公に似ている。人形が正体を現すシーンは中田演出の真骨頂だろう。

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 「リング」の貞子で世界のホラー映画に影響を与えた中田監督。魂を持った人形が奇怪な動きで人間を襲うなど、ハリウッド映画の経験を生かし、サービス精神にあふれた演出を見せている。デビュー作への原点回帰を感じさせつつ、第一人者の健在ぶりを改めて感じさせる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「劇場霊」(2015年、日本)

監督:中田秀夫
出演:島崎遥香、足立梨花、高田里穂、町田啓太、中村育二

2015年11月21日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gekijourei.jp/

作品写真:(C)2015「劇場霊」製作委員会

タグ:レビュー
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